頭のいい人は、「遅く考える」。遅く考える人は、自身の思考そのものに注意を払い、丁寧に思考を進めている。間違える可能性を減らし、より良いアイデアを生む想像力や、創造性を発揮できるのだ。この、意識的にゆっくり考えることを「遅考」(ちこう)と呼び、それを使いこなす方法を紹介する『遅考術――じっくりトコトン考え抜くための「10のレッスン」』が発刊された。
この本では、52の問題と対話形式で思考力を鍛えなおし、じっくり深く考えるための「考える型」が身につけられる。「深くじっくり考えられない」「いつまでも、同じことばかり考え続けてしまう」という悩みを解決するために生まれた本書。この連載では、その内容の一部や、著者の植原亮氏の書き下ろし記事を紹介します。

遅考術Photo: Adobe Stock

ジンクスや都市伝説にまつわる、「思考のエラー」

 今回は身近にあるジンクスや都市伝説を題材に、自分の思考に起こるエラーについて考えたい。まずは考え方の練習として、例題を考えてみてほしい。

 恋人たちの別離や破局に関する有名なジンクスには、その地域に応じた特徴が観察できる。そうした例をいくつか挙げてみよう。

・井の頭公園のボートに乗ったカップルは別れる(東京)
・カップルが梅田の観覧車にいっしょに乗ると別れる(大阪)
・名古屋港水族館にデートでいくと別れる(愛知)
・カップルで札幌のイルミネーションを見ると別れる(北海道)

 こうしたジンクスは、100パーセント別れるというわけではない。けれども、ジンクスとして実際に存在する程度には、ボートや観覧車に乗ったり、水族館にいったりした恋人たちが、少なくない割合で別れてしまう傾向が現実に見られる、ということではあるだろう。

 では、特定の場所でのそうした行為のせいでカップルが破局しがちになる、と本当に考えてよいだろうか?

このジンクスは本当なのか?

 上記以外のジンクスを聞いたことがある方もいるだろう。実際、こういった話は、日本中にある。そして、「日本中どこにでもある」というのは、実は大事なポイントになる。

 この問題では、井の頭公園のボートに乗ったりしたことが原因でカップルは別れる、という因果関係が正しいかを聞いている。さすがにこれは、直観的に違うだろうと思える。さて、どう考えていくべきだろうか?

 例えば、こんなことが思い浮かぶかもしれない。「ボートに乗っていたり、イルミネーションを見ていたりすると、ケンカをしはじめちゃって、だから別れる」。

 そういう人たちも中にはいるだろうが、それだと破局の原因はあくまでもケンカとなる。ここで聞かれているのは、何かの乗り物に乗る、どこか特定の場所を訪れる、といった行為そのものが別れの原因になるかどうかだ。

「基礎比率」を考えよう

 実際にそんな因果関係があるかというと、ちょっとなさそうな感じがする。ここで、「日本中どこにでもある」というのがポイントになる。

 個々のカップルだけを念頭に置いて考えるのではなくて、カップルというもの全体を集団として捉えよう。そうして見えてくる統計的な傾向がある。つまり、基礎比率を考慮しよう、ということだ。

 基礎比率とは、「もともとの割合」のこと。私たちには、それを無視して直観的な判断を下してしまう傾向がある。

 この問題だと、カップル全体という集団での基礎比率を考える、ということになる。つまり、恋人たちは傾向として、全体的に破局する。少なくない割合でカップルは別れるものだ、と気づければいい。

 まとめると、もともとカップルというものがそれなりの割合でいずれは破局を迎えるがゆえに、ジンクスでいわれているような乗り物に乗ったり、場所を訪れたりしたカップルもまた、必然的に一定の割合で別れる、という仮説が立てられる。ジンクスでいわれている行為そのものがカップルの破局を引き起こす原因であると考えるのは難しい、と言える。