D社労士は続けた。

「東京都の最低賃金は令和3年度が1041円、令和元年度と2年度は1013円です。Aさんの賃金が最低賃金以下になったのは令和元年の10月分からですが、令和元年10月分から令和2年2月分(令和2年3月25日給与支払い)までの5カ月分は時効で消滅しています。従って令和2年3月分(令和2年4月25日給与支払い)から令和4年9月分(令和4年10月25日給与支払い分)までの31カ月分の賃金差額を計算します」

参考:地域別最低賃金額の経緯 平成14年度から令和3年度まで

<差額の計算例>
〇 令和2年3月分から令和3年9月分まで
 (1013円-1000円)×160時間×19カ月=3万9520円……ア
残業代分:1013円×1.25=1266円(50銭未満は切り捨て)
 (1266円-1250円)×30時間×19カ月=9120円……イ
 ア+イ=4万8640円
〇 令和3年10月分から令和4年9月分まで
 (1041円-1000円)×160時間×12カ月=7万8720円……ウ
残業代分:1041円×1.25=1301円(50銭未満は切り捨て)
(1301円-1250円)×30時間×12カ月=1万8360円……エ
ウ+エ=9万7080円
Aに支払う差額賃金:14万5720円

 C所長はうなずいた。

「分かりました。本社に説明してA君に最低賃金との差額を支払ってもらうようにします」

 D社労士は更にAの賃金をさかのぼって変更することによって、次の点も確認するように付け加えた。

〇 Aに支払った令和2年度以降の賞与額の決定方法によっては、追加の支払額が発生すること
〇 社会保険料、税金額等について遡って変更する手続きが必要になる場合があること