田辺容疑者がスパイなら
何度死んでいるか

 かっぱ寿司事件の情報持ち出しについて考えるには、田辺容疑者がスパイだとすると、どこでミスをしているかを考えると分かりやすい。仮に同容疑者が国家の重要機密を盗もうとするスパイだとすると、比喩的に言うと「何度も死んでいる」に違いない。

 以下、決して重要情報の持ち出しを推奨するわけではなく、むしろそれがいかに難しいかを知って諦めてもらうためなのだが、「スパイとしての田辺容疑者のミス」を振り返ってみよう。

(1)社内システムからデータをダウンロードした

 第一のミスは、重要情報を社内のシステムからデータとしてダウンロードしようとしたことだ。「証拠」が残るので、このミスは決定的だ。

 今どきのある程度以上の規模の会社では、社内のシステムでデータがどのように動いているかは「全て」記録されている。また、データの不審な動きについては警告が出る場合もある。このやり方は危険すぎる。

 プリントして紙で持ち出すなら大丈夫なのか(たぶん許されるようには作られていない)、画面の写真を撮るならいいのか(社内のカメラに写りそうだ)、など、いろいろな考えが湧くかもしれない。しかし、少なくとも自分の転職が疑われる段階以降は「データでの情報持ち出し」は無理だと考えておくべきだ。

 筆者がかつて働いた主に金融系の職場では、妙に遅い時間まで残業してコピー機を使っている同僚が、程なく転職を明らかにして辞めていくという事例が数多くあった。金融業なので、業務知識は会社が変わってもほとんどそのまま使える。彼らが持ち出したいと思ったのは、主に顧客の連絡先、顧客との過去の取引記録などだ。

 昔の職場では、転職の際に、顧客の名刺ファイルは会社のものか、社員個人のものか、を巡って争いが生じることもあった(正論は「会社のもの」なので争おうとは思わない方がいい)。夜遅いオフィスで黙々と名刺ファイルをコピーしている社員は、たいていの場合「程なく辞める人」だった。

 現在の企業の社内システムは「不自然なデータの閲覧」をチェックするような機能を持っている場合が多いはずだ。データの利用の仕方から転職していく社員が事前に分かる場合があることは、会社側として知っておいていいだろう。