しかし、今のオフィスのスタンダードで考えると、自分が作成した書類であってもデータの形で社外に持ち出すことはできないケースがあるかもしれない。会社のルールにもよるが、業務時間に会社から報酬をもらいながら作った成果物の権利は、全面的に会社が持つというのが一般的な会社側のロジックだ。会社側と「争って勝てる」とは思わない方がいい。

 まして、かっぱ寿司事件のように、仕入れ先や外注先(これも重要情報になり得る)、取引の条件などは営業に関する秘密に属し、持ち出しが一段と許されない場合が多いはずだ。

 営業担当者なら必ず欲しいはずの顧客リスト、連絡先のような情報も正面から持ち出す(会社の了解を取って持ち出す)ことは難しいだろう。また、正面以外の場所から持ち出そうとすると余計なリスクを負うことになるかもしれない。

 持ち出しがOKな会社に勤めていたとしても、顧客のリストや連絡先のようなものは、転職を意識する以前の日常の状態にあって別途自分で持っておくべきだろう(有能な営業マンは会社とは別の方法で自分の顧客情報を管理していることが多い)。調査・研究職の場合は、仕事を会社と自宅の両方でこなすことが多いだろうから、この際にバックアップを確保するチャンスが生まれる。

転職の際にベストなのは
「記憶以外の情報は持ち出さない」

 ただし、持ち出しOKの場合であっても転職先で前職から持ち出したデータを露骨な形で使ってはいけない。首尾良くデータを持っていたとしても、転職後の職場では、あたかも「記憶の中にあるものだけを使っている」かのように利用しなければならない。

 そして、結局のところ後から役に立つ知識というものは、自分の思考のフィルターを最低一度以上通り抜けて自分の記憶に定着しているものがほとんどなのだ。筆者は、世の中がデータの持ち出しに厳しくなる少し前にこの点に気付いたつもりでいる。「転職の際は、記憶以外の情報は一切持ち出さない」と決め込んで、実際にそうすることが一番だと思う。

 ただし、そこまで注意しても、記憶の使い方次第では、新しい職場にあって「重要情報の持ち出しを疑われるリスク」があることに注意する必要がある。

「情報」と安全に付き合うことは、読者ご自身が思っている以上に難しいことを十分意識しつつ、前職の情報に余計なこだわりを持たずに朗らかに転職してほしい。