「気持ち悪くなっても大丈夫」を身につける

「気持ち悪くなっても大丈夫」という考え方を少しずつ身につけていくために、安全確保行動や回避行動を手放していくことが大切です。

 そこで、次の3つのステップで行動のプランを立ててみることをおすすめします。

①今の自分がとっている吐かないため・気持ち悪くならないための「安全確保行動」、「回避行動」をすべてリストアップする。

②少しでも「これは手放せそうかな?」と思えるものを1つから3つ程度ピックアップする。

③ピックアップしたものを手放すプランを段階的に立てる。

 ここでは3の段階的に手放すプランの立て方が特に重要なので、具体例を用いながら少し解説していきます。

 たとえば、②で「ビニール袋を携帯しておく」という安全確保行動をピックアップしたとします。

 理想としては「ビニール袋を持ち歩かなかったとしても、何も不安なく日常生活を過ごせること」だと思いますが、いきなりビニール袋を持ち歩かないのは、ハードルが高すぎると感じる場合もあると思います。前項で「これくらいなら手放せるかもしれない(けど、ちょっと不安)」くらいのことからとお話ししましたが、それを考えると、たとえば「カバンの取り出しやすい位置に入れてあるビニール袋を少しだけ取り出しにくい位置に入れるようにする」くらいがちょうどいいハードルかもしれません。

 おすすめは段階を0~100の不安レベルで考えてみることです。

・ビニール袋を持ち歩かない(不安レベル100)

・カバンの取り出しやすい位置に入れてあるビニール袋を、かなり奥の位置に入れるようにする(不安レベル60)

・カバンの取り出しやすい位置に入れてあるビニール袋を、少しだけ取り出しにくい位置に入れるようにする(不安レベル30)

 数値と感じる不安の目安として、100は「かなり不安」、60前後は「できるかもしれないという気持ちよりも、不安の方が大きい」、30前後くらいを「これくらいならできるかもしれないけど、ちょっと不安」、0は「行動をするのに全く不安がない」としてください。

 これらの行動の際のコツがいくつかあります。それは、すぐにステップアップせずに、まずは何度も同じ行動を繰り返すことです。

 なぜなら、同じことを繰り返していくと「あれ? 前よりも不安を感じていないかも!」と前進をより実感しやすいからです。これを馴化といいます。

 そしてその実感が「じゃあ次は、こういうことができるかもしれないな」というさらなる前進を生み出すのです。

何度も同じことを繰り返す

 また、もう少し余裕があれば、なるべく頻度を高く行うこともおすすめです。

 これは頻度が高ければ高いほど、より早くステップアップしやすいからです。仮に1年に1回だけやったとしたら、効果が薄いことは想像できると思います。つまり「“久しぶりに”恐怖場面に遭遇した」ケースを減らしていくことで、改善しやすいということです。

 さて、これまでのことを簡潔にまとめると「これくらいならできるかもしれないけど、ちょっと不安」くらいのことを、なるべく毎日のように何度も繰り返すことが大切ということになります。

 これを続けていると、最初は不安度30くらいに感じていた行動が0に近くなり、60に感じていた行動が30に近づいていく……など、少しずつ今までの対策を手放すことができるようになります。そうしたら、少しずつ次の行動へとステップアップしていきましょう。

(本書は『「吐くのがこわい」がなくなる本』〈山口健太著、福井至、貝谷久宣監修〉を抜粋、編集して掲載しています)

本書は以下に当てはまる方におすすめです。ぜひチェックしてみてくださいね。

・「吐くのがこわい」「気持ち悪くなるのがこわい」と日常で感じることが多い人
・人が吐く場面や吐瀉物などに尋常ではない恐怖感を抱く人
・嘔吐恐怖症のカミングアウトをしたいが、どうすべきか迷っている人

【著者】山口健太(やまぐち・けんた)
一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事、カウンセラー、講師
2017年5月に同協会を設立(アドバイザー:田島治杏林大学名誉教授、はるの・こころみクリニック院長)
自身が社会不安障害の一つの「会食恐怖症」に悩んだ経験を持ち、薬を使わず自力で克服する。その経験から16年12月より会食恐怖症の方への支援活動、カウンセリングをはじめる。その中で関連症状の「嘔吐恐怖症」の克服メソッドを研究。これまで1000人以上の相談に乗り改善に導いてきた。主催コミュニティ「おうと恐怖症克服ラボ」では、会員向けに克服のための情報を発信している。著書に『会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと』(内外出版社)、『食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)などがある。
【監修】福井 至(ふくい・いたる)
東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科・東京家政大学大学院教授。和楽会認知行動療法センター所長、公認心理師・臨床心理士、博士(人間科学)
1982年、早稲田大学第一文学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程心理学専攻単位取得退学。札幌大学女子短期大学部助教授、北海道浅井学園大学人間福祉学部助教授、東京家政大学文学部助教授を経て、2008年より現職に至る。編著書に、『図説 認知行動療法ステップアップ・ガイド-治療と予防への応用』(金剛出版)、『図解による学習理論と認知行動療法』(培風館)などがある。
【監修】貝谷久宣(かいや・ひさのぶ)
京都府立医科大学客員教授。医療法人和楽会理事長、パニック障害研究センター所長。医学博士
1968年、名古屋市立大学医学部卒業後、ミュンヘンのマックス・プランク精神医学研究所に留学。岐阜大学医学部助教授、自衛隊中央病院神経科部長を経て、93年、なごやメンタルクリニック開院。97年、赤坂クリニック理事長となる。パニック障害や社交不安障害治療の第一人者として、幅広く活躍中。『健康ライブラリー イラスト版 非定型うつ病のことがよくわかる本』(講談社)、『よくわかるパニック障害・PTSDー突然の発作と強い不安から、自分の生活をとり戻す』(主婦の友社)、『気まぐれ「うつ」病ー誤解される非定型うつ病』(筑摩書房)など、著書・監修書多数。