10月14日、日本の鉄道は開業150周年を迎えた。前回は時間にルーズな日本人と遅れてばかりの明治の鉄道を取り上げた。ところが1930年代に入ると日本の鉄道の正確さは世界的に評価されるようになった。この30年で日本の鉄道に何が起こったのだろうか。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
日本の近代史における
転換点となった第一次世界大戦
日本近代史の転換点は1914年に勃発した第一次世界大戦だ。直接の戦場にならなかった日本はロシアやイギリスなどへの軍需品の供給基地になり、またヨーロッパからの輸入が途絶えたアジア諸国への輸出や、アメリカへの生糸輸出が激増。空前の好景気を迎えた。
それまでの日本は繊維工業などの軽工業が中心であったが、この時期に造船や製鉄などの重工業が発展し、終戦までの5年間で国民総生産は名目3倍、実質で1.5倍に膨れ上がった。
当時、陸上交通のほとんどを担っていた鉄道の利用状況は経済活動のバロメータである。1909年から1919年の10年間の鉄道利用者数の推移を見ると、前半の5年間は約1.3億人から約1.7億人へ約4000万人の増だったのに対し、後半の5年間は約1.7億人から約3.6億人へ約1.9億人も増加している。
その結果、鉄道の現場は大混乱に陥った。1918年4月13日の東京日日新聞は「すし詰め列車、鉄道の大混雑驚くべし」と題して「鉄道全線にわたる旅客の輻輳(ふくそう)は四月に入りて最頂上に達し定員超過乗り遅れ等」が頻発しているにもかかわらず、鉄道事業者の対応が遅いと非難している。