この際、「YCCをやめる」と発表すると、長期金利は上昇するだろうし、金融政策の大きな転換なので、為替レートは大幅な円高になるだろう。もちろん、利回りを明示したYCCをやめるだけなので日銀は、好きな時に好きなだけ国債を買うことができる。

 いくらか苦しい説明になるが、日銀の黒田東彦総裁は「長期債の市場機能を回復しつつ、必要があれば躊躇(ちゅうちょ)なく金融緩和を行うので、金融緩和をやめたわけではない」と言い張ればいい。そして、一、二度、日銀は盛大に長期国債を買って、金利上昇のポジションを取った市場参加者に怖い思いをさせてみてもいい。

 利回りの数字を明示したYCCは日銀としてもいささか負担のはずだ。今後、黒田総裁が言うように、インフレ目標の達成が賃金上昇を伴って明確化するような事態になると、YCCの出口は今よりもますます困難なものになるに違いない。

 金融緩和を徹底する意味での論理的「純度」を欠くきらいがあるが、円安騒動のどさくさに紛れて、金融緩和政策の実施方法を修正するのは「現実的には」悪い話ではないように思う。

 なお、こうした政策を採るとした場合に、保有する国債の値下がりなどを通じて日銀が会計上、債務超過に陥ることを問題視する向きがあるが、これは大した問題ではない。騒ぐこと自体が子どもじみている。

 国が日銀を破綻させることは現実的に得にならないし(破綻させたら別の中銀を作るのだろうが、それならつぶさない方が低コストだ)、つぶさない方法は簡単だ。政府が日銀の債務を保証してもいいし、日銀に増資してもいいし、公的資金を入れてもいい。故・安倍晋三氏が言っていた「日銀は政府の子会社だ」という実質が明らかになるだけだ。

1ドル=150円時代の消費の在り方
「変えないこと」に固執しない

 もともとの国際相場における資源価格の上昇に加えて、円安がガソリン代、電気代、広範な食料品などの価格上昇を後押ししていることは周知の通りだ。

 政府に、個々の品目の「価格」に対する対策を期待するのは、本来は正しくない。

 例えば、物価上昇が問題になる以前のSDGs(持続可能な開発目標)に関連する議論を思い出してみよう。地球温暖化を防ぐためには例えば炭素(排出)税や炭素排出権売買のような仕組みをつくって、炭素を排出する化石燃料製品の価格に反映させ、これらへの需要を抑制することが一つの対策になるはずだった。