「カジュアル」な気持ちで相談を受け
もっと多くの人につながりを

大空氏Photo by H.K.

「あなたのいばしょ」の相談員には、「身近な人が死にたがっていることがわからなかった」という自死遺族の人や、自身が死にたいと思ったときに誰かに手を差し伸べられた経験がある人が多いという。

 相談員は、約4カ月の研修を経てなることができるが、相談に乗ることを重く捉えすぎず、自分では手に負えないと思ったら公的な相談窓口につなぐ、といった、ある意味「カジュアル」な気持ちで相談を受け、もっともっと多くの人につながりをつくる、そのような主体になっていってほしいと大空氏。

 NPOなど支援する側というものは、損得を考えずに貧しくあるのが美徳とされたり、自らが犠牲になるまで打ち込んでしまったりするが、それでは自身も活動も長く持たない。だから自分は情熱も高尚な気持ちも持たず、「カジュアル」に相談に乗るという。

対話Photo by H.K.

 ある女子学生の参加者は、「大学入学後にコロナ禍で人と接することができずに寂しい思いをしている人に向けて、誰でも参加できるお茶会を運営していた。次第に『友達がいなくて、生きるのが楽しくない』という人から継続的に相談されるようになった。深く関わりすぎるのはお互いにとってよくないと思い、密接になりすぎないよう、適切に距離をとっていたら、『結局、私はひとりなんだ』と言われ、失望させてしまったようで悲しかった。相談者との距離感というのは難しいと思った」と体験を告白。 

 それを聞いて大空氏は、「本気の他人事」という心構えを説く。

「相手(相談者)は赤の他人。自分が一番大事と思うようにして、相談者との間に薄い線を引いて、『自分に余裕がある部分で、他人事を本気でやる』というスタンスでいてほしい。『私だけではなく、他の人にも相談してみてね』と、相談者に『依存先』を増やしてもらうように促す。相談に乗っていて自分が苦しくなるようなら、相手を『切って』もいい。自分も、相談者全員の相談にすぐに乗ることができず、(期待が大きい分、失望されて)これまで4回、殺害予告を受けたことがある。でも相手の人生を背負う必要はない。そうやってみんなが自分を守りながら(相談者と)接することで、結果的に自殺は減る」(大空氏)

 田原氏も、「自殺の相談に乗るのは相当タフなこと。誰かに相談されても、自分はその人への理解力があり、その人にとって特別な存在だ(だから全力で相談に乗らなければ)と思わないことが大事だ」と助言する。親子であれ、相談される側であれ、関係性が行き詰まったときや相談内容が重すぎるときは、「相手は他人だ」と線引きをする。一見冷たいようでも、相手も自分も救う作法といえる。