早稲田の昔ながらの喫茶店にて、定期的に「田原カフェ」という対話会が催されている。ジャーナリストの田原総一朗氏が「一日マスター」となり、20代を中心とした約20人の若者たち、そして、その回のテーマに応じて招いたゲストらと、対話を行うイベントだ。ゆるい「朝ナマ」のようでもあるが、重きを置いているのは議論ではなく、あくまで「対話」である。その場にいる参加者全員がある意味、パネリストであり、誰でも自由に発言できる。忖度(そんたく)のない若者ならではの意見や悩みも自由に飛び交う。今回、その田原カフェの第5回「多様性を問い直す」を取材した。(構成・文/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)
多様性が大事といわれるが
そもそも「多様性」とは何か?
1934年、滋賀県生まれ。1960年に早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に開局とともに入社。1977年にフリーに。テレビ朝日系「朝まで生テレビ!」等でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ「城戸又一賞」受賞。早稲田大学特命教授を歴任(2017年3月まで)、現在は「大隈塾」塾頭を務める。「朝まで生テレビ!」「激論!クロスファイア」の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。近著に『コミュニケーションは正直が9割』(クロスメディア・パブリッシング)、『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(冨山和彦氏との共著、KADOKAWA)など。 Photo by Teppei Hori
早稲田大学前・早稲田キャンパスの南門の目と鼻の先に、「ぷらんたん」という昔ながらの喫茶店がある。店名の由来は、フランス語の「春」だ。1950年のオープン以来、「学生街の喫茶店」として、学生や地元の人に愛されてきた。
この老舗の喫茶店で、早大の講義「たくましい知性を鍛える(大隈塾)」(※現在は休講)の受講生だった学生やOBらが中心となり、定期的に「田原カフェ」という催しを企画している。
大隈塾の塾頭でもあるジャーナリストの田原総一朗氏が「一日マスター」となり、20代を中心とした若者たち、そして、その回のテーマに応じて招いたゲストらと、対話を行うイベントだ(詳細は2022年8月12日配信「田原総一朗氏が喫茶店のマスターに!」参照)。
ルールはおもに2つ。(1)「対話」を意識し、「意見の違い」を楽しむこと。反論はOK だが「否定」はしない。(2)心理的安全性を担保すること。手を挙げてから発言し、発言に対しては拍手をする。発言にタブーはない。
6月27日に開催された第5回のテーマは「多様性を問い直す」。「多様性」が世の中で重要視される中、そもそも「多様性」とは何なのか?
認定NPO法人カタリバで、学校の校則やルールを対話を通して見直し、生徒たちが主体的に関われる学校をつくっていく取り組み「みんなのルールメイキング」プロジェクトを行っている古野香織(ふるの・かおり)氏と、「国分寺の投票率を1位にプロジェクト」発起人でありブロガーの諏訪玲子(すわ・れいこ)氏をゲストに迎え、約20人の若い参加者たちと身の回りの「多様性」について感じることを語り合った。
「多様性というものをどう乗り越えるか? 多様性をめざすと対立も起こる。多様な人がいる中でどのようにルールというものをつくっていくか?」
司会者のこの問いに田原総一朗氏が答える。
「そもそも日本は多様性を求めていないのではないだろうか。多様性を求めるということは、ある意味、競争の自由を求めるということでもある。小泉(純一郎)内閣の時、小泉氏とブレーンだった竹中平蔵(元経済財政担当相)氏は、日本に競争の原理を取り入れた。彼らは新自由主義といわれている。日本経済が悪化する中、日本的経営では、企業は労働者の新陳代謝を上げることはできない。そのため非正規の労働者を雇えるようにしたが、これがのちに批判の的になった。逆に言えば、正社員でも自由に企業間を行き来できるような仕組みをつくれば、非正規の労働者を増やす必要はなかった。日本人は貧富の差が生まれるのが好きではない。競争が好きではないのだ」
会場の参加者が手を挙げる。「実は日本は多様性を求めていないのではという、今のお話で思い出したことがあります。私は中学生の頃、生徒会長をしていたのですが、その学校の生徒会長の選出方法が、各クラスの学級委員長の中から選ぶという、議院内閣制のような形でした。私はそれに疑問を抱き、学級委員であってもなくてもすべての立候補者に対し、全校生徒が投票で選ぶ方法が良いのではないか、多様性が生まれるのではないかと思い、生徒会長になってからの1年は、次の生徒会長の選出からは、全校生徒が直接的に生徒会長を選ぶ選挙制度にしようと奔走しました。がんばりはしたのですが、先生方からの指摘もあり、結局はうまくいかないまま終わったんです」
「先生はルールを変えるのは反対だよ。全部、現状維持したいもの」と田原氏。
「そうかもしれませんね。先生たちに納得してもらえるよう、もっと良い方法はなかったかなというのは今でも思います」
自身も、認定NPOの職員をする傍ら、非常勤講師として高校で週1回の授業を受け持つ古野香織氏は、「今の学校では、生徒の声を取り入れながら学校をより良いものに変えていきたいという先生も増えてきている一方で、現状維持をしたいという考えの先生も当然、います。異なる考えを持つ他者同士、根気強く対話を重ねていくことが重要だと思います」という。
先ほどの参加者が再び口を開く。