NPO法人「みらいの森」子どもの自立に「キャンプ」が役立つ理由とは? 写真提供:みらいの森

子どもが親などから虐待を受けたとして児童相談所が対応した件数が、昨年度初めて20万件を超えた。全国の児童養護施設には、こうした虐待を受けた子どもたちのほか、交通事故や病気などで保護者がいなかったりと、さまざまな理由で保護者と一緒にいることができない子どもたち約3万人が生活している。しかし今、児童養護施設は4つの難題に直面している。アウトドアを通じて児童養護施設の子どもたちの自立を支援するNPO法人「みらいの森」と、首都圏内で約40人の子どもたちが暮らす児童養護施設を取材した。(ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)

虐待等で児童相談所が対応した件数が
統計開始以来、初めて20万件を超える

 厚生労働省が発表した速報値によると、昨年度、子どもが親などから虐待を受けたとして児童相談所が対応した件数は全国で20万5029件。20万件を超えたのは1990年度の統計開始以来、初めてである。特にこの5年間で約2倍に増えた。

 内訳は、暴言をはいたり子どもの前で家族に暴力を振るったりする「心理的虐待」が59.2%で突出して多く、殴るなどの暴行を加える「身体的虐待」が24.2%、育児放棄などの「ネグレクト」が15.3%、「性的虐待」が1.1%と、それに続く。心理的虐待が増加していることに関して厚労省は、児童が同居する家庭における配偶者への暴力(面前DV)に関する、警察をはじめ、近隣・知人、家族・親戚、学校からの通告・相談が増加していることを要因として挙げている。これらの事情で保護者から適切な養育を受けられない子どもたちの一部は、児童相談所の入所手続きによって、児童養護施設へと預けられる。在所期間は1年~18年までさまざまだ。全国の児童養護施設には、このような虐待を受けた子どもたちのほか、交通事故や病気などで保護者がいなかったりと、さまざまな理由で保護者と一緒にいることができない、おおむね2歳~18歳の子どもたち、約3万人が生活している。

 しかし今、児童養護施設は、風評被害、職員不足、子どもたちの自立問題、そしてコロナ禍という4つの難題に直面している。アウトドアを通して児童養護施設の子どもたちの自立をサポートしている岡こずえ氏に、話を聞いた。

施設の子どもは高校卒業と同時に
「完全な自立」を強いられる

――児童養護施設は全国にどのくらいあるのでしょうか。

NPO法人「みらいの森」エグゼクティブ・ディレクターの岡こずえ氏NPO法人「みらいの森」エグゼクティブ・ディレクターの岡こずえ氏 写真提供:みらいの森

 約600施設です。児童福祉法に定められた「児童福祉施設」(※1)のひとつで、施設そのものは都道府県の管轄ですが、学校や保育園と違って、すべての市区町村に設置されているわけではありません(※2)。

 児童養護施設に対しては、正しい理解がまだまだ世の中に普及していないのが現状です。「問題行動を起こす子どもたちが多く住んでいる」「親に捨てられたかわいそうな子どもたちが多く住んでいる」といった漠然としたイメージによって、世間からの偏見や就職差別を受けることもあり、負の経験をして入所してきた子どもたちは、さらに心に傷を負うことになります。

 施設では、職員や関係者の尽力によって、子どもたちが安心して生活できる場所が提供されています。「行ってきます」と言って幼稚園や学校へ向かい、学校が終われば、クラブ活動をしたり、習い事や趣味を楽しんだり、友だちと遊びに出かけたりします。

 地域の活動にも参加しますし、施設の行事に地域の人を招待するところもあります。どこの家庭にもある風景が、児童養護施設でも日々、営まれているのです。親や親戚と面会が可能な子は、休みの日などに会うことができますし、年末年始などの長期休暇では一時帰省する子もいます。

※1 児童福祉法第7条では、「児童福祉施設」について、「児童福祉施設とは、助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童厚生施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター、児童心理治療施設、児童自立支援施設及び児童家庭支援センターとする」と定義している。
※2 児童福祉法第41条では、「児童養護施設は、保護者のない児童(乳児を除く。ただし、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、乳児を含む。以下この条において同じ。)、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設とする」と定義している。

――児童養護施設が抱える課題について教えてください。

 児童養護施設に住む子どもたちは原則として、高校卒業と同時に「完全な自立」を強いられます。多くの子どもたちは経済的な理由などから進学が難しく、退所後の選択肢に就職を選びます。退所後の自立生活を見据え、高校に入るとアルバイトをして準備を進める子も多いようです。

 NPO法人ブリッジフォースマイルの調査「全国児童養護施設 退所者トラッキング調査2021 報告書」によると、全国の高校生の約70%が進学しますが、児童養護施設の出身者の進学率は約36%。たとえ進学したとしても中退してしまう子が約20%います。

 全学生の中退率に対し、児童養護施設出身者による中退率は約10倍に上るという報告もあります。理由はさまざまですが、メンタルの不調のほか、アルバイトをして学費を払い、生計を立てながら学校へ通うことの難しさはよく耳にします。

 日々の生活を保障してくれていた児童養護施設での生活から一変し、周囲のサポートがほとんどなくなってしまう状態で、社会に出されるのです。