2017年3月に金融庁が「顧客本位の業務運営」を掲げてから4年超が経過した。言葉としては金融業界に広く浸透しているものの、実態としてはまだ道半ばといえる。そうした現状について、金融当局はどう考えているのか。金融庁総合政策局の松尾元信局長に話を聞いた。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)
原則の策定から4年超が経過
「顧客本位の業務運営」の現在地
――2017年3月に金融庁が「顧客本位の業務運営に関する原則」を掲げてから、4年超が経過しました。言葉としては金融界に浸透していますが、実態が伴っているかといえば、そうとは言い切れません。改めて、顧客本位の業務運営とはどういうことでしょうか。
顧客本位とは「貯蓄から資産形成へ」という大きな目的の中で、顧客の最善の利益を追求するために業務運営を行うということ、より具体的にはおのおのの顧客にふさわしいサービスの提供、商品の販売を行うことです。そのために手数料の明確化や分かりやすい情報提供を行いながら、顧客本位が企業文化として定着すること、そうした企業文化を浸透させるガバナンスを行うことだと考えています。
そこで金融庁としては、さまざまなツールを用意してきました。原則を策定して以降、取り組みの結果を明らかにするために自主的なKPI(重要業績指標)の公表を求め、さらに共通KPI導入によって、比較可能性を向上してきました。また、今回新たな取り組みとして、「取組方針の見える化」と「重要情報シート」を用意しました。
――見える化や各種ツールは、どのような関係にあるのでしょうか。
ポイントは三つあると考えています。
まず、一つ目として、これらのツールを使って顧客本位の業務運営を実現していく際に、ツール利用がルールの一つとしてコンプライアンス的に順守されるのではなく、顧客を意識した顧客本位の業務運営の手段として意識される必要があります。
別の言い方をすれば、幾つかあるツールを、常に同じものを用いたり、それぞれ独立して使ったりするのではなく、各場面に応じてツールを組み合わせて使っていく必要があると考えています。
次に、二つ目として、いずれのツールを用いる際にも「見える化」を意識してほしいと考えています。「見える化」の対象は単純に考えれば、顧客ですが、必ずしも顧客に限られる訳ではありません。営業担当者や経営陣、金融庁に対する「見える化」して共通認識の手段とすることも重要です。
見える化の典型的な場面は、営業担当者が顧客と応対する営業現場です。しかし、会社内で経営陣と営業担当者との対話の際にも使えますし、見える化を使って組織の見直しにも活用できます。さらには、金融庁としても、おのおのの金融機関の顧客本位の業務運営の定着状況等を確認する際の対話でも使っていきたいと考えています。
また、見える化によって、金融機関同士の横比較ができるようになりますので、自社よりも良い取組みを参考にしながら、さらに良い方法を検討するヒントにもなります。
三つ目は、この原則を企業文化として定着させるには、人事や評価制度など組織の仕組みの見直しも重要になってくると考えています。その上で、最終的には顧客の最善の利益を図りつつ、金融機関にとっても安定的な収益を上げていくことが大事だろうと思います。
――見える化を現場に落とし込むのは、まだまだ難しいのではありませんか。