これだけ「自己肯定感」という概念が注目され、「子どもの自己肯定感を高めてやりたい」と思うお母さんお父さんもいらっしゃるのではないでしょうか。……でも、どうすれば??
徹底した少人数制授業で「対話」を重視し、「詰め込まない・追い込まない学び」「学ぶ楽しさを見つけるための受験勉強」で多くの塾生を志望校に進学させてきた「知窓学舎」にも、「子どもの自己肯定感を高めるには親はどんな声掛けをすべきですか?」という質問が多数寄せられるといいます。
新刊『子どもが「学びたくなる」育て方』を出版した塾長の矢萩邦彦氏が、そのヒントをお伝えします。(構成/編集部・今野良介)

否定されない大切さ

子どもの探究心を育てるために欠かせないことの一つが、「親子の対話」です。

探究心を育てていく対話というのは、一方的に親の話を子どもに聞かせるお説教とはもちろん違いますし、カウンセラーのようにただ子どもの話に耳を傾けて「傾聴すること」とも違います。

その特徴をシンプルに言えば「楽しく会話すること」です。

「うちの子は話しかけても返事すらしなくて……」とか「うちの子は何にも興味がないから会話が続かなくて……」と悩むお母さんお父さんも少なくありません。

そういう場合には、「子どもが話をしたいと思える空気」が家庭にあるかを見直してみましょう。

そこでまずは、その空気づくりのコツを3つ、お伝えします。

①否定しない

人が「この人と話したい」と思う大きな条件は「自分を否定されないこと」です。

これは年齢に関係なく、誰にでも言えることです。「そんなことは聞いてない」とか「要点だけ言え」などと言ってくる上司と安心して話はできないでしょう。

子どもがゲームばかりしたり、動画サイトばかり見ていることを心配する方も多いですが、ゲームや動画もじゅうぶんに対話のきっかけになります。

私は、漫画もゲームも生徒たちが熱中しているもの、興味を持っているものは、ひととおりチェックします。『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』も読みましたし『マインクラフト』も『あつまれ どうぶつの森』もプレイしました。子どもを夢中にさせる優れたコンテンツには、大人もおもしろいと感じるポイントがちゃんとあります。それを見つけることが、子どもとの会話の種になります。

人は、自分がおもしろいと思っているものに興味を持ってくれる人の話は、ちゃんと聞きます。

「いつまでゲームしてるの!」ではなく「ずいぶん熱中しているけど、そのゲームのどんなところがおもしろいの?」と尋ねてみる。「くだらない動画ばかり見てないで勉強しなさい!」ではなく「オススメの動画ある?」と聞いてみる。

子どもが好きなものを否定せずに、子どもが興味を持っていることに親自身も興味を持つ姿勢が、対話をはじめる最初の一歩です。

とはいえ「子どもがナイフに興味を持っている」とか「夜に外出したがっている」など、親としてはヒヤッとするような場面もあるでしょう。

そんなときもまずは冷静に「どうしてナイフが好きなの?」「なぜ、夜に出かけたいの?」と、子どもの思いを受け入れ、興味がどこから来て、どこに向かっているのかを探るようにするのです。その後で、「じゃあナイフは一緒に使ってみようか」とか「一人で出かけるのは許可できないけど、一緒に出かけるならいいよ」と、お互いの安心・安全が確保できるアイデアを示してあげるのです。

親は子どもの健康や安全を守るため、いろいろなルールを作ります。「刃物は勝手に使わない」とか「夜9時には寝る」などもルールの一つです。

家庭内でのルールは、子どもも含めたみんなで話し合って決めることが大切です。「〇時~〇時までは勉強する」などのルールを親が勝手につくって押しつけてしまうと、主体性や柔軟性は身につきません。

ルールを作るために話し合うこともまた、大切な対話の時間だからです。

「子どもの自己肯定感」を守れる親がやっていることそもそもが、かけがえのない時間。 Photo: Adobe Stock

②合理化しない

「親目線で子どもの話を合理化しないこと」も大事です。

「受験したいと言ったのはあなたでしょ? 週に4日は塾に通わないとダメよ」とか「もうすぐピアノの発表会があるから今週は学校から帰ってきたら練習ね」などと親が勝手にタイムマネジメントをするのは、親による合理化の最たる例です。

受験したいけれど、友達とも遊びたい。サッカーも野球も両方やりたい。ピアノは好きだけど練習はしたくない。こうした子どもの不合理な気持ちは健全なものです。限られた時間の中で、何を選び、何を諦めるかを、子どもは合理的には考えないのです。

私の教え子に、受験勉強は毎日平均1時間くらいで、あとはスポーツばかりしていた子がいました。スポーツをする環境を求めて私立への進学を考えていたので、合格させるために彼から練習時間を取り上げるのは本末転倒です。彼は勉強のための1時間をとても大事にしていましたし、すごく集中力がありました。「スポーツに集中できる大学付属校に行きたい」という熱い気持ちが彼の受験勉強を支え、見事超難関とされる学校に進学しました。

子どもの不合理さを大人の視点から判断しないで、まずは受け入れる。優劣をつけずに、できる限りの選択肢を書きだしてみると、今まで気づかなかった解決策が見つかるかもしれません。

受験もするし、サッカーも野球もやる。全部やる選択肢があっていいし、それをどう実現するのかを親子で話し合うのは、受験の合否よりも大切なかけがえのない時間です。

③応答する

「なんで空は青いの?」

子どもからふいにこんな質問をされたとき、みなさんはどう応えますか。

忙しい日常のなかで「ごめんあとにして」と済ませることもあるでしょうし、時間があれば知識を総動員して「光学的にはこうなっているから……」と説明を試みることもあるでしょう。

ただし多くの場合、子どもが親に質問をするときに子どもが求めているのは、「回答」ではなく「応答」だと私は感じています。もし本当に空の青さの理由を知りたいなら、今どきの子どもはインターネットで調べるでしょう。脈絡のない、思いつきのような子どもの質問は、ただお父さんやお母さんと話がしたいサインかもしれません。

ここでいう「応答」とは、「感想を伝え合うこと」です。これは、「傾聴」とも違うし、「思いを引き出すこと」とも違います。

世間には、コーチングやカウンセリングのスキルを親子関係に活用する本やコンテンツがあふれていますが、「全然うまくいかなかった」という方も多いかと思います。こうしたスキルが子どもにうまく作用しない一因として、子どもは、大人のように心の内に秘めた思いや言葉があるとは限らない、という単純な事実があります。

要するに、たいていの子どもは今思っていることだけを話しているということです。だから、親が返す言葉も「自分が今思ったこと」でじゅうぶんなのです。

忙しいときは「たしかになんで青いんだろうね」と子どもの言葉を繰り返すだけでもいいし「おもしろいことに気づいたね」とひと言返すだけでもいい。もう少し余裕があれば「昼間は青いけど、夕方には赤くなるよね」と新しい疑問で返すのもいいでしょう。

「何か学びになることを言わなければ」と固くなる必要はありません。むしろ何かを学ばせようとすると、子どもは敏感にそれを察知して対話をやめてしまうこともあります。

対話の重要性を意識している方ほど「頭のいい子を育てるにはどんな会話をすればいいですか?」とか「自己肯定感を高めるには親はどんな声掛けをすべきですか?」と質問されます。

私はいつも答え方に困るのですが、良好な親子関係ができてさえいれば、本当は何を言ったっていいのだとお伝えしています。関係が良好であれば、極端な話「え、こんなことも知らないの?」と子どもをからかうような返答すら、子どもの興味や関心を掻き立てることだってあります。

相手が投げかけた言葉をきっかけに、頭や心の中でどんな言葉や思いが生まれたのかを見せ合う。

ゲームや動画コンテンツにはない、生身の人間同士のやりとりのおもしろさはそこにあります。

対話で育まれる「自己有用感」と「自己肯定感」

「子どものやる気を引き出すにはどんな声掛けをすればいいですか?」

これも、保護者から頻繁にいただく質問です。

そもそも「やる気」とは何でしょう?