「出発進行!」というかけ声とともに、白い手袋をした手をピンとのばす運転士の姿は、見ていてカッコいいものです。これはパフォーマンスではなく、事故やエラーの発生を未然に防ぐために、対象物の方向を指差してその名称や状態を発声して確認する安全確認動作です。では実際には指差喚呼で何を確認しているのでしょうか。
※本稿は、西上いつき『鉄道運転進化論』(交通新聞社新書)の一部を抜粋・編集したものです。
歴史ある安全動作「指差喚呼」
「出発進行!」というかけ声とともに、白い手袋をした手をピンとのばす運転士の姿は、見ていてカッコいいものです。これはパフォーマンスではなく、事故やエラーの発生を未然に防ぐために、対象物の方向を指差してその名称や状態を発声して確認する安全確認動作です。
「指差喚呼」と呼ばれ、私の在籍していた名鉄では「指差称呼」と呼んでいました。「指差呼称」としている鉄道事業者もあるようです。発声方法や動作方法などもそれぞれ少しずつ異なります。
もともと、「指差」と「喚呼」は別のものでした。まず「喚呼」については、鉄道創業の時期から「信号喚呼」というのがすでに行われており、機関士が信号の現示(列車または車両に対してそのとき現に示されている信号の指示を示す鉄道用語)を声に出して確認することを行っていたといいます。
喚呼応答は機関士と機関助士が乗務する機関室にて、機関助士が「第3閉そく」と信号機名をいったのち、機関士がその現示を見て「第3閉そく進行!」と応答します。そして機関助士が「進行!」と声をあげてダブルチェックを行う方法です。
起源としては、今村一郎著の『機関車と共に』(ヘッドライト社、1962年)に、明治末期に「目が悪くなった機関士の堀八十吉が、機関助士に何度も信号の確認をしていたのを、同乗した同局の機関車課の幹部が、堀機関士が目が悪いことに気がつかずに、素晴らしいことであるとしてルール化したもの」とあります。