ドル高円安をサイクル現象として捉えると、多くの論点の整理がしやすくなる。日本衰退など今の円安に絡めて論じる筋違いも容易に理解できるだろう。円安は日本経済にとって明暗両面があるが、少なくとも日本のマクロ経済、株式相場が他の先進国より落ち着いている背景になっている。いたずらに不安視することなく、サイクルをうまく取り込んでほしい。(田中泰輔リサーチ代表 楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー 田中泰輔)
ドル円サイクルの基本と
コロナ禍がもたらしたひずみ
相場において、人知をもって予測の体(てい)をなすのは、ほとんどサイクルしかない…、主に米欧金融機関で投資ストラテジーを担った35年間の末の実感である。
ここで言うサイクルは、景気の好悪に沿って金利、株式、為替など市場が上下動するサイクル展開のことだ。
サイクルの基本は以下の通り。景気を「軟化⇒下降⇒回復⇒加速⇒成熟」の繰り返しとすると、株式相場は景気に先行性がある。景気下降期に金融緩和開始前後から金融相場という上昇局面入りし、その後、金融引き締め局面でも、景気加速期まで業績相場として上昇。しかし金利が景気中立水準を超えるあたりで、景気の成熟期ピークの前に反落する。
政策金利は、景気動向を十分確認し、景気に遅行しがちなインフレをにらんで変更されるので、景気には遅行性が指摘される。
ドル円相場は政策金利に遅行する傾向が観察された。金融緩和下では米金利低下に沿ってドル安円高になる。利上げ初期は、まだ金利水準がドル買いを促すほど高くなく、利上げを嫌う米株式・債券が売られ、ドルもダメ押し的な下落になりがちだった。
その後、景気は加速、株価は業績相場の局面に、利上げで高まった米金利がドルに資金を集めてドル高円安になる。ドル円相場は、若干の時間差を伴うが、米短期金利が主動因である。高インフレ環境だと利上げが長引く分、ドル円のピークは景気のピークより後ずれしやすい。
以上が、サイクルの基本であるが、コロナ禍はサイクルにさまざまなひずみをもたらした。次ページからはその特殊性を解説するとともに、筆者に寄せられるドル円相場への7大疑問と回答をご紹介しよう。