ビジネスの世界ではいま、「営業」という仕事の生産性を高め、会社の成長の原動力にしようという機運が高まっている。株式会社ナレッジワークCEO麻野耕司さんの新刊『NEW SALES』は、そんな時代のニーズを捉え、圧倒的な成果が出る営業メソッドを体系的に紹介した1冊だ。ビジネスメディア「PIVOT」では、新しい営業を実践する企業のキーパーソンに麻野さんが取材をする動画新連載「NEW SALES」がスタート。本記事ではその内容をテキストでお伝えします。
第1回目のゲストはサイバーエージェント上級執行役員である石井洋之さん。激動の広告市場を勝ち抜いてきたサイバーエージェントの営業の秘訣とは何なのか。“選ばれる営業組織の育て方”について、麻野さんが深掘りしました。(構成/谷本明夢)

サイバーエージェントの広告営業で大切にしている「サプライズ営業」とは?

“問い”で気づきを与える
サプライズ営業を

麻野耕司(以下、麻野) 今回の対談前に、石井さんがサイバーエージェントの営業組織で、今後取り組んでいきたい「NEW SALES」のキーワードを教えてもらいました。それが「サプライズ」ということなのですが、どういったサプライズなのか、詳しく教えてください。

石井洋之(以下、石井) 麻野さんの著書『NEW SALES』にも書かれていますが、営業にとって大事なことは、お客様と会った時におもしろい提案やワクワクする驚きのある提案を持っていくことだと思うんです。お客様の業績がびっくりするくらい伸びる提案や、新しいテクノロジーを使った企画などは、私自身も提案していきたいし、メンバーもできるように育てていきたいですね。

麻野 著書『NEW SALES』の中で書いていますが、昔であれば、お客様のところにカレンダーを持って年末年始に挨拶に行く営業も成り立っていました。でも今の時代、お客様は働き方改革で労働時間を短くしていかに効率的に仕事を進めるかを考えていたり、コロナ禍で不要不急の接触を避けたいと思うようになっている。そういう状況で挨拶に行くことは求められなくなっています。

 そんな状況で今、営業に何が求められているのか調べたところ、半分以上の目的は「情報提供」だったんです。インターネットが普及して何でも調べられる現代だからこそ、営業担当者に会わないと得られないような情報は少なくなっています。営業や販売支援を手がけるセレブリックスで働く今井晶也さんの著書『お客様が教えてくれた「されたい」営業』では、「気づきのある営業をしている比率は全体の10~20%しかない」とありました。その、限られた気づきのある営業担当者になることがすごく大切で、だからこそ1回1回のコンタクトポイントで、サプライズを与えることが大切なんです。

 お客様にサプライズを与えるために、石井さんが大切にしていることや、これから取り組みたいと思っていることはありますか。

サイバーエージェントの広告営業で大切にしている「サプライズ営業」とは?石井洋之(いしい・ひろゆき)
株式会社サイバーエージェント 上級執行役員
2002年、株式会社サイバーエージェントに新卒入社。2007年にSEOに特化した株式会社CAテクノロジーを立ち上げ代表取締役社長に着任、3年間で市場No.1へ成長させる。2015年、株式会社シーエー・モバイル 代表取締役社長に就任。「ZONE戦略」を掲げ、独自の組織マネジメントや新規分野への参入に取り組み、3年で250%の成長率を実現し会社の再建を成し遂げた。2018年10月から、株式会社サイバーエージェント 上級執行役員(現任)の職務に就き、インターネット広告事業本部管掌として、更なる挑戦を続ける。

石井 広告事業の営業責任者をやってきて、経営者にお会いする機会が多いのですが、やはり経営者のみなさんは、世の中で今、何がうまくいき儲かっているのかが知りたいと思っています。世の中の変化が早く、ビジネスチャンスもどんどん変わっているので、最近何がうまくいっているのかという情報が知りたい、と言われることが増えました。

麻野 サプライズを与えるような組織づくり、人材づくり、営業づくりをしていきたいということですね。

石井 提案そのもののサプライズもありますが、お客様が改めてハッと気づくようなサプライズもいいなと思っています。例えば経営者に「ご自身の事業の一番のロイヤルユーザーがどのような人か分かりますか?」と聞いてみると、意外とちゃんと認識していない経営者層は多いんです。そう聞くと「確かに一番大事なことが分かっていないな」という気づきによるサプライズが起こる。

麻野 こちらから情報を与えるだけではなくて、問いを立てるということですね。

石井 それで思考が整理されて気分がよくなった、という状態ですね。なかなか経営者って、それを部下とやるのは難しいんです。「ところで社長、うちの一番のロイヤルユーザーがどんな人か知っていますか?」って部下はなかなか社長に言えないですよね。

麻野 外から客観的に言われるからこそ気づけることってありますよね。

営業のトップは、ファーストペンギン企業に
積極的にコンタクトせよ

麻野 石井さんから見て、営業組織や営業担当者のみなさんが「OLD SALES」から「NEW SALES」に変わっていくために意識すべきポイントは何だと思いますか。

石井 マーケットの変化についていくことはかなり大事だと思います。業界で今、伸びているものが何なのかを知っておくこともそうですが、お客様のニーズをつかんでおくことも大事でしょう。そのためにも、営業のトップが自ら、さまざまな業界をリードしているファーストペンギン企業に、自分で営業に行って、社長や経営陣とつながっておくべきだと思っています。

麻野 「ファーストペンギン企業を、営業のリーダーが自らつかまえよ」ということですね。確かに「あの会社がやっているなら自分たちもやる」という日本企業はまだまだ多い。だからこそ、その最初の一社をつかまえることが大事なんですね。大変だけど、そこにリーダーの労力を割いて、その1社が決まればそこから広がっていくというのはありますね。新しい商品をリリースしたときにファーストペンギンになってくれる企業に、リーダーは普段からリーチしておくべきだということですね。

サイバーエージェントの広告営業で大切にしている「サプライズ営業」とは?麻野耕司(あさの・こうじ)
株式会社ナレッジワーク CEO
2003年慶應義塾大学法学部卒業。同年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。2016年、国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」立ち上げ。国内HR Techの牽引役として注目を集める。2018年、同社取締役に着任。2020年4月、「できる喜びが巡る日々を届ける」をミッションに、株式会社ナレッジワークを創業。2022年4月、「みんなが売れる営業になる」セールスイネーブルメントクラウド「ナレッジワーク」をリリース。著書:『NEW SALES』(ダイヤモンド社)、『THE TEAM』(幻冬舎)、『すべての組織は変えられる』(PHP研究所)

石井 企業だけじゃなく、担当者レベルでもファーストペンギンになってくれる人はいます。失敗してもいいから新しいことをやりたいという人。必ずしも大企業というわけでもありません。企業における、経営陣のコンセンサスの取れたチャレンジ予算というものをつけられている担当者ですね。

麻野 イノベーター理論では、新しい商品が世の中に出た時に、「イノベーター」から「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」、そして「ラガード」という順番で広がっていくと言われていますが、それで言うところの「イノベーター」になってくれるファーストペンギン企業やファーストペンギン担当者を見つけておくと、どんな商品が出てきてもマーケットを広げていけるということですね。

石井 リーダーがそこに接点を作り、関係性を強化しておくことが、成長するために重要ですよね。お客様のビジネスを成功させて成長していくことが私たちの仕事なので、一緒にチャレンジできるお客様はとても大切だと思っています。

麻野 そのネットワークがあることで、市場マーケットの変化に適応しやすい営業組織が作れる、と。とてもおもしろいですね。ありがとうございました。