ビジネスの世界ではいま、「営業」という仕事の生産性を高め、会社の成長の原動力にしようという機運が高まっている。株式会社ナレッジワークCEO麻野耕司さんの新刊『NEW SALES』は、そんな時代のニーズを捉え、圧倒的な成果が出る営業メソッドを体系的に紹介した1冊だ。ビジネスメディア「PIVOT」では、新しい営業を実践する企業のキーパーソンに麻野さんが取材をする動画新連載「NEW SALES」がスタート。本記事ではその内容をテキストでお伝えします。
第1回目のゲストはサイバーエージェント上級執行役員である石井洋之さん。激動の広告市場を勝ち抜いてきたサイバーエージェントの営業の秘訣とは何なのか。“選ばれる営業組織の育て方”について、麻野さんが深掘りしました。(構成/谷本明夢)
成果目標の先にある意義目標への理解を深め、
やりがいをもって取り組める社員を育てる
麻野耕司さん(以下、麻野) 今日は石井さんに創業から24年間で3000億円の売り上げを作ってきたという、サイバーエージェントのインターネット広告事業の営業の強みについてうかがいたいと思います。
強さの秘訣として、石井さんが1つ目に挙げたのが「モチベーションの高さ」。モチベーションと言えば、私は前職の株式会社リンクアンドモチベーション時代に、サイバーエージェントのインターネット広告部門のサポートをしたことがあります。前職で提供していた組織状態を可視化する「モチベーションクラウド」を利用してもらったんですが、この時のスコアが当時の全導入企業の中でも日本一で、モチベーションカンパニーアワードで表彰させていただきました。
つまり、石井さんの率いるサイバーエージェントのインターネット広告事業が、日本一のモチベーションの高い組織だったということです。実際、営業のモチベーションを高く保つために、どのような取り組みをしているのでしょうか。
株式会社サイバーエージェント 上級執行役員
2002年、株式会社サイバーエージェントに新卒入社。2007年にSEOに特化した株式会社CAテクノロジーを立ち上げ代表取締役社長に着任、3年間で市場No.1へ成長させる。2015年、株式会社シーエー・モバイル 代表取締役社長に就任。「ZONE戦略」を掲げ、独自の組織マネジメントや新規分野への参入に取り組み、3年で250%の成長率を実現し会社の再建を成し遂げた。2018年10月から、株式会社サイバーエージェント 上級執行役員(現任)の職務に就き、インターネット広告事業本部管掌として、更なる挑戦を続ける。
石井洋之さん(以下、石井) サイバーエージェントにはプロジェクトレポート、略して「プロレポ」という仕組みがあります。会社の方針発表のある半年に1回のタイミングで、チーム全員が集まって「チームの目標を何にするか」というビジョンを考えて、全体に発表する仕組みで、役員から賞の授与などもあります。つまり、プロレポを通じてチームの全員が、ビジョンについてしっかり考えるわけです。
麻野 営業組織のマネジメントって、「売上高30億円を達成するぞ!」というような数値で成果目標を立てることが多いんですが、数値目標の先にあるビジョンという、定性的意義目標を大事にしているということでしょうか。
石井 サイバーエージェントの営業も、昔は定量主義だったんです。数字によって評価され、昇格していたわけですが、2010年ごろに異動や離職が増え、数字を評価するだけでは人がついてこないと実感しました。その失敗から学んで、やりがいによるマネジメントや、メンバーの新しい成長機会を作ることを意識するようになりました。
選ばれる営業窓口を育てるために
お客様の評価を社員にフィードバック
麻野 「プロレポ」以外にも、社員のモチベーションを維持するために実践している取り組みはありますか。
石井 多くの会社は「顧客満足度調査」を実施していると思います。同じように、サイバーエージェントも3カ月に1回、お客さまにアンケートをお願いしており、回答率もとても高い。設問は3つで、1つの設問に対して5点配点の15点満点評価で、15点満点で回答いただけることもあれば、時には5点のこともあります。
麻野 その調査ではどのような項目を聞いているのでしょうか。
石井 設問はシンプルです。1つ目は広告効果、2つ目は提案の量、3つ目は営業の満足度について。この3つの項目で点数化し、全員を12点以上に持っていこうとしています。
実は一時期、競合他社の顧客満足度が高く、案件を取られてしまうことが続いたことがあったんです。それを受けてわれわれも反省しました。売上高を伸ばすことも大事だけれど、顧客満足度の最大化の方がもっと大事だよね、と。今では会社の中でも大きな比重で取り扱われるテーマになってきており、すごくいいことだと思っています。
株式会社ナレッジワーク CEO
2003年慶應義塾大学法学部卒業。同年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。2016年、国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」立ち上げ。国内HR Techの牽引役として注目を集める。2018年、同社取締役に着任。2020年4月、「できる喜びが巡る日々を届ける」をミッションに、株式会社ナレッジワークを創業。2022年4月、「みんなが売れる営業になる」セールスイネーブルメントクラウド「ナレッジワーク」をリリース。著書:『NEW SALES』(ダイヤモンド社)、『THE TEAM』(幻冬舎)、『すべての組織は変えられる』(PHP研究所)
麻野 顧客満足度調査を実施する会社はたくさんありますが、その調査項目に提案の量や満足度など、営業の対応についても評価してもらうようにしているわけですね。
石井 そこが重要なんです。もし扱っている商品が他社と比較してもあまり変わらないのであれば、“誰から買うか”が大事になりますよね。
麻野 インターネット広告の代理店事業では、扱っている商品はGoogleやYahoo!の広告ですから、ほかの代理店でも扱っているものが多い。であれば、フロントに立つ担当者の対応で差をつけるしかない。だからこそ定期的に顧客満足度調査を実施して、定量的に評価しているわけですね。
石井 営業の対応を幹部やチームで協力し合いながら高めていき、お客様からのコメントを喜んだり、評価が低かったらまた頑張ろうと言い合ったり。時にはお客様の声を動画で撮らせていただいて、締め会のときにチームで流すこともあります。
麻野 “ノーメジャー・ノーコントロール”という、測定していないものはきちんと運用できないよねという意味の言葉がありますが、お客様を大切にするという方針に対して、営業の対応をちゃんと定量化されているのは、なかなかできないことですよね。
社員のモチベーションは
山の天気くらい変わりやすい
石井 サイバーエージェントでは顧客満足度調査だけではなく、ほかにもメジャーメントを意識してやっていますね。例えばチームメンバーから「Geppo(ゲッポウ)」というシステムで、アンケートを月に1回取っています。仕事に対する満足度、人間関係などについて、晴れや曇り、雨などのお天気マークで評価してもらい、それが毎月レポートになって出てくる仕組みです。
麻野 従業員の満足度調査みたいなものですか?
石井 そうです。設問は3問程度です。数は時によって調整しますが、極力少なくして、その代わりに頻度を増やしています。
麻野 一般には1年に1回とか半年に1回、50問や100問くらいのアンケートに答える形式が多いと思うのですが、項目の多さよりも頻度の高さを重視されている、と。
石井 重要なのは頻度と、あとは項目を最小限に抑えて回答率を上げることですね。
麻野 以前、石井さんから聞いた「社員のモチベーションは山の天気くらい変わりやすい」という言葉を思い出しました。確かに1カ月、2カ月といった短い期間でも人のモチベーションはすぐに変わってしまいますよね。すごく元気だった人が、ほんの1カ月で元気がなくなってしまう。だからこそ、毎月調べることが重要なんですね。
石井 それもおもしろいのが、「晴れ=良い」というわけではない、ということです。自分に対して厳しい人は、ずっと曇りだったりする。だから、私たちがこの「Geppo」で何を見ているかというと、変化を見ているんです。曇りだったのが、雨になったり、晴れが曇りになったり。モチベーションの変化の予兆を感じたら、すぐに対話をしに行くなど、状況を掴みにいくようにしています。
(2022年11月15日公開記事に続く)