ビジネスの世界ではいま、「営業」という仕事の生産性を高め、会社の成長の原動力にしようという機運が高まっている。株式会社ナレッジワークCEO麻野耕司さんの新刊『NEW SALES』は、そんな時代のニーズを捉え、圧倒的な成果が出る営業メソッドを体系的に紹介した1冊だ。ビジネスメディア「PIVOT」では、新しい営業を実践する企業のキーパーソンに麻野さんが取材をする動画新連載「NEW SALES」がスタート。本記事ではその内容をテキストでお伝えします。
第1回目のゲストはサイバーエージェント上級執行役員である石井洋之さん。激動の広告市場を勝ち抜いてきたサイバーエージェントの営業の秘訣とは何なのか。“選ばれる営業組織の育て方”について、麻野さんが深掘りしました。(構成/谷本明夢)
営業プロセスを細分化し、
専門のチームをつくって効率を高める
麻野耕司(以下、麻野) 同業他社を寄せ付けない利益率の高さ、そして生産性の高さがあるサイバーエージェントの営業の強み、2つ目は「仕組み」とお答えいただきました。石井さん、ぜひその仕組み化の秘訣を教えてください。
石井洋之(以下、石井) 10年前からやっているのは、チームによる分業制と仕組み化の推進です。営業やコンサルなど、モノを考える担当者はそこに集中するため、レポート作成や広告の運用といったオペレーションは極力仕組み化し、仙台や沖縄、ベトナムに拠点を持つ子会社、株式会社シーエー・アドバンスと連携して生産性を上げる取り組みを進めてきました。
株式会社サイバーエージェント 上級執行役員
2002年、株式会社サイバーエージェントに新卒入社。2007年にSEOに特化した株式会社CAテクノロジーを立ち上げ代表取締役社長に着任、3年間で市場No.1へ成長させる。2015年、株式会社シーエー・モバイル 代表取締役社長に就任。「ZONE戦略」を掲げ、独自の組織マネジメントや新規分野への参入に取り組み、3年で250%の成長率を実現し会社の再建を成し遂げた。2018年10月から、株式会社サイバーエージェント 上級執行役員(現任)の職務に就き、インターネット広告事業本部管掌として、更なる挑戦を続ける。
麻野 それまでは1人の営業担当者が顧客の対応から資料の作成までやっていたところを分けた、と。
石井 運用は運用チーム、レポートはレポート作成チーム、そして営業は顧客のことを考えて戦略を考えると分けて、理想に近づけてきた10年でした。
麻野 生産性を上げるには、やっぱり分業化が必要だと思いますが、日本の営業って全然分業化が進んでいないように思います。私の著書の『NEW SALES』でも書いていますが、アメリカの方がさまざまな形で分業化が進んでいて、営業の生産性が高い。
例えば、資料作成・共有を手掛けるコンテンツ担当、育成を担うトレーニング担当、業績管理・分析のオペレーション担当など、専門スタッフが営業部門内に配置されていて、営業担当の業務を分担しています。
日本でも営業の生産性向上のために分業化しましょうと言うと「総論賛成」にはなります。ただ実際にやろうとすると、営業でフロントに立っている人をミドルオフィスの仕事に下げたら売り上げが落ちるのでは? といった迷いから意思決定ができないことが多い。石井さんには迷いはなかったのでしょうか。
石井 迷いはありましたが、私たちの事業は常に人を採用して、未経験者を育てていかないといけない事業です。そのため、事業を成長させたいなら、なるべく分業化し、専門性を高め、早く一人前にしていかないといけない。
麻野 1人のメンバーに何でも求めてしまうと、戦力化するまでに時間がかかってしまうということでしょうか。
石井 そうです。市場の成長にメンバー育成の速度が追いつかず、お客様に迷惑をかけてしまうケースも多かったんです。お客様のためにも、メンバーの成長を加速させるためにも、分業という仕組みを推進することにしました。
入社1年目でも
競合に勝てる営業を作る
石井 大切な仕組みとして、市場や扱う商品の変化にいち早く対応するために必要な情報やノウハウを共有するプラットフォームを作っています。具体的にはナレッジワークのシステムを利用して、「ほんさぽ」という本部メンバーをサポートするプラットフォームを提供しています。
この20年で、われわれが扱う商品も変わってきました。昔はバナー広告やメール広告だったけれど、今は壮大なYouTubeのクリエイティブやインフルエンサーマーケティング、時にはメタバース空間の提案などをしています。扱う商品がどんどん変わる業界なので、今ある商品を理解して、社内メンバーに届けるプラットフォームは大事だなと思ったんです。
麻野 商品情報をタイムリーに共有する、社内ポータルサイトのようなプラットフォームを用意して、そこに行けばみんながわかるようになっているということですね。
石井 プラットフォームの情報が更新できているかをチェックする責任者を立てたことで、「いつまでに情報をください」ということや「どんな情報が見られているか」ということも確認しながらアップデートできています。
株式会社ナレッジワーク CEO
2003年慶應義塾大学法学部卒業。同年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。2016年、国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」立ち上げ。国内HR Techの牽引役として注目を集める。2018年、同社取締役に着任。2020年4月、「できる喜びが巡る日々を届ける」をミッションに、株式会社ナレッジワークを創業。2022年4月、「みんなが売れる営業になる」セールスイネーブルメントクラウド「ナレッジワーク」をリリース。著書:『NEW SALES』(ダイヤモンド社)、『THE TEAM』(幻冬舎)、『すべての組織は変えられる』(PHP研究所)
麻野 すごいですね。一般的な企業の営業では、そこまで商品資料が共有されていません。そのため、営業担当者が一人ひとり、「最新の商品資料をください」と商品部やマーケティング部にメールで問い合わせをしたり、「過去の提案書を共有してください」と別の営業担当者にチャットで頼んだりするというやりとりをしています。
このやりとりを効率化するにはナレッジ共有のプラットフォームが必要ですが、「やりましょう」となっても運用する人がおらず、「その人材どこから異動させてこようか?」というところで迷っている会社が多いんです。その中で、サイバーエージェントでは、やると決めたらもう翌月には担当者がアサインされている。仕組みづくりに対する投資判断がとても早いと感じます。
石井 常に、事業を成長させることを意識していますから。だからこそ、誰でもできるようにする。なんなら入社1年目でも競合に勝てるようにする。こういうことを、社内でもよく言っています。
麻野 スケーラビリティや再現性、生産性にこだわった結果が、仕組みへの投資につながっているということですね。
石井 仕組みという点では、ありとあらゆることに対しての思考のフォーマットがあります。例えば局長だったら、「このステップで入力していけば局経営ができる」、といった局経営の考え方の共通のフォーマットのようなものです。また、いろいろな職種ごとに必要な思考のフレームワークを用意しています。例えばお客様へのヒアリング方法とか、企画書の作り方とか、クリエイティブのオリエンガイドラインなんかもまとめられているんです。
麻野 フォーマット経営というのがおもしろいですね。フレームワークを共有しようという会社は多いと思うのですが、抽象的なフレームワークだけが頭の中にあっても、日々の業務で使えていないといった課題が生まれやすい。
でも、「これを埋めていくとできるよ」というフォーマットになっているわけですね。例えば局の方針を決めるフォーマットに、2年間で8回記入していくうちに、その思考法が身についていく。そんなフォーマットが、マネジメントにもそのほかの職種に対してもあるんですね。
石井 同時にフォーマットに入力されたものを、2つくらい上のレイヤーのメンバーがチェックして、フィードバックするようにしています。メンター的な役割ですね。その人たちは本人に、「あくまでも君が主役だ」「より良くするには、こうした方がいいと思う」といった形で伝え、本人はフィードバックを聞いた後にまたブラッシュアップしていきます。(2022年11月16日公開記事に続く)