いまや日本円の価値は下がり、日本経済の成長も長期的には期待薄……。米国経済も、Twitter、Meta(Facebook)、Amazon、HPとリストラを実施する大手企業が続々と増え、いっときの“米国株ブーム”は過ぎ去った。そこでいま注目されるのが「グローバル投資」だ。米国の富裕層の間では、米国以外の海外資産を組み入れるグローバル投資の動きが、以前にも増して加速しているという。
日本と海外の投資・経済を知り尽くした金融マン待望の初著書
『個人投資家もマネできる 世界の富裕層がお金を増やしている方法』(ダイヤモンド社)では、富裕層がやっているイギリス・フランス・ドイツ・イタリア・スイス・インド・チリ・台湾などへの国際分散投資法を、一般の個人投資家に向けてわかりやすく解説。投資バランスは「保守:積極:超積極=5:3:2」、1銘柄の投資額は資産全体の4%以内で、資産全体の2割は現金買付余力に――など、SBI証券や楽天証券などでも実践できる内容で、「これならできそう」「続けられそう」と思えるグローバル投資の秘訣を明かした1冊だ。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、グローバル投資の極意を伝授する。

【シン富裕層のお金の増やし方】“伸び盛りの富裕層”がグローバル投資に走るワケイラスト:ヤギワタル

「ホームカントリー・バイアス」にご用心

【前回】からの続き 程度の差こそあれ、誰しも生まれ育った母国を特別視する傾向があります。それは投資でも同じことです。これを「ホームカントリー・バイアス」(母国市場への投資偏重)といいます。これは「行動経済学」の概念なのですが、母国市場以外への投資に慎重になりすぎるあまり、母国(ホームカントリー)への投資に偏ってしまう傾向のことです。

資産運用は、金融商品の特性やリスクをよく理解してから行うのが鉄則です。その点、日々生活している自国への投資のほうが身近なこともあって、商品の特性やリスクが理解しやすく、ホームカントリー・バイアスがあるのは、ごく自然なことかもしれません。

日本よりはるかに株式投資に積極的な米国にも(日本銀行の「資金循環統計」によると、日本人の株などへの投資は個人の金融資産の10%止まりですが、米国では37.8%に達します)、ホームカントリー・バイアスはあります。「アメリカ・アズ・ナンバーワン」と信じている人は、少なくないのです。

米国株からグローバル株へ
大きくトレンドが変化

ところが、そんな米国でさえ、米国株からグローバル株へという大きなトレンドの変化が起こっています。私と旧知の間柄にあるベテランの米国人アナリストから、「いま米国株以外のグローバル株への投資の割合を増やしている」と聞かされたのは、2021年末のことでした。ここで、グローバル投資の歴史を振り返ってみましょう。

米国でグローバル投資が花開いたのは、ロナルド・レーガン大統領の時代。米国が「双子の赤字」に苦しんでいた1980年代のことです。双子の赤字とは、「経常収支(貿易収支)」と「財政収支」の赤字が併存する状態です。当時の双子の赤字は、いわゆる“レーガノミクス”という経済政策による大規模減税と、ソ連(当時)との冷戦にともなう軍事費の増大などが要因でした。

双子の赤字を抱えると、財政赤字を穴埋めするため、高金利政策で海外資金の流入を促して、国債を対外消費する政策がとられます。すると“ドル高”になり、国内産業が国際的な競争力を失い、輸出減&輸入増で経常赤字が悪化するという悪循環に陥るのです。

米国ではグローバル投資が
1980年代に活発化

そのため、1985年には「プラザ合意」で“ドル安”への誘導が行われましたが、翌1986年には対外資産が対外債務を下回り、米国は純債務国に転落します。双子の赤字を抱えたままだと、米国経済の衰退を招きかねません。そこで資産を守るため、個人投資家の間でも、米国株一極集中から、グローバル株を含めた国際分散投資へと資産運用をシフトさせる動きが生まれたのです。

その後、米国は世界に先駆けて、インターネットをフルに活用したIT化とグローバル化に成功します。バブル崩壊後に右肩下がりでジリジリと衰退を続ける日本を尻目に、米国経済は1991年3月から9年近くにわたり、第2次世界大戦後最長の経済成長を続け、“インフレなき成長”を実現しました。

依然として双子の赤字を抱えたままだったのですが、高い経済成長率により、世界唯一の超大国としての地位を確立したのです。こうした繁栄を経て2000年代に入ると、一時的にグローバル投資は忘れ去られることになります。 【次回に続く】

※本稿は、『個人投資家もマネできる 世界の富裕層がお金を増やしている方法』より一部を抜粋・編集したものです。