氾濫する情報の
信頼性を見極める方法

 デマの拡散については、「テレビに登場した専門家と呼ばれる人々の多くが、あたかも全て知っているかのように不正確な説明をしていたことも問題である」と、宮坂氏は厳しく指摘する。

「水洗式トイレの使用は気を付けないと感染する、紫外線でウイルスは殺せるなどのうそが、正しい情報として提供されたため、恐れる必要のないことまで恐れるようになってしまいました。また、スクリーニングがかかりにくいSNSでは、誰が何を書いても人々の目に入ってきてしまいます。今でもTwitterなどに、ワクチンに関する間違った情報がたくさん載っていますよ」

 宮坂氏が感じていたフェイクニュースの大きな問題点は、別分野の専門家やマスコミが現象や一部の条件だけを抽出して伝えてしまった点なのだという。

「もっとも分かりやすい例として、ファイザー社を2011年に退職したマイケル・イードン博士が、コロナワクチンを打った実験動物は2年以内にすべて死んだと述べたことが挙げられます。コロナによるパンデミック発生の9年前に退職したイードン博士は、コロナワクチン開発に関与できません。それに実験動物のマウスの寿命はそもそも2年なんです」

 ワクチン開発で有名なファイザー社の人間が発した言葉だから、と額面通りに受け取ってしまうと「ワクチンは恐ろしいものだ」と感じてしまうだろう。

 また、「ワクチンを打ったら死んでしまう」といった、数字の一部分だけを切り取って誤解させる情報が広まってしまうこともあった。例えば日本では、月ごとに、ワクチン接種後に死亡した人数を厚生労働省のHPで確認することができる。ワクチン接種後に亡くなった人がいることは事実だが、死亡者数の推移だけを比較しても、ワクチンが死亡者を増やしたかどうかの判断はできない、と宮坂氏は語る。

「ワクチン接種した人の総数が増えることで、比例してワクチン接種後に亡くなった人の数も増えますよね。数字がどのような状況を反映しているかを正確に認識しなければならないのです」

 イギリスでの死亡率とワクチン接種との関係性の調査結果を例に、宮坂氏はこう語る。

図表:死亡率とワクチン接種との関係ワクチン接種後の死亡者数で単純に比較するのではなく、ワクチン接種者における死亡者の割合で比較すると、コロナウイルスに対するワクチンの効果が高かったことが読み取れる 拡大画像表示

「このデータで注目してほしい点は、COVID-19(コロナウイルス)による死者数と、コロナウイルスとは無関係な死者数との比較です。仮にワクチンがコロナウイルスに効かないか死亡するリスクを高める場合、『全死亡者に対するCOVID-19死者の割合』の数値は、未接種者より接種者の割合が高くなっているはずです。ところが、そうはなっていない。むしろ、このデータを見る限りでは、ワクチンの死亡抑制効果を示していますよね」

 グラフを見ると、全死亡者におけるコロナの死亡者の割合は、ワクチン未接種者が37.4%であるのに対し、2回目接種21日以降の人はわずか0.8%にすぎない。

 見かけの正しい数字から誤った結論に帰着していないかどうか、基礎知識のない一般人には判断することは難しい。だからこそ、専門家が発信した情報であっても、何を根拠とした発言なのか、情報元をたどるクセをつけることが必要だ、と宮坂氏は話す。

「今は、情報にアクセスする手段が無数にあります。目に入る情報が多すぎるゆえに、その情報が本当に正しいのか検証する余裕のない人が多くなっているのかもしれません」