実は中東諸国の中では
「西洋化」が進んでいる国カタール

 これらのような人権侵害が告発されているところを見ると、カタールはいかにも前近代的な国家に見えるが、実際はどうなのだろうか。米紙「ニューヨーク・タイムズ」がW杯前に読んでおきたいカタール本としても推薦している、社会学者ジェフ・ハークネス著の『CHANGING QATAR』の記述から、カタールという国についてご紹介しよう。

 カタールは石油によって莫大な富を有しているが、カタール政府は「この石油が永遠に続くわけではない」ことを知っている。そのため、欧米のエリート大学8校(米カーネギーメロン大学、米コーネル大学、米ジョージタウン大学、仏HECパリ〈パリ高等商業学校/パリ経営大学院〉、米ノースウェスタン大学、米テキサスA&M大学、英ロンドン大学、米バージニア・コモンウェルス大学)のサテライト校をつくり、国民の教育を通じて、国家の世界的地位を高めようとしている。

 またカタールは、中東最大の米軍基地のために土地を提供し、地域紛争の調停(時には資金提供)、22年W杯を含むメガスポーツイベントの実施、カタール航空の設立なども手掛けてきた。さらには、ジャーナリズム的姿勢が強いテレビ局「アルジャジーラ」のメディアネットワークの構築を進めることで、「ダイナミックでボーダレス化する国際経済」の確立を目指している。

 いわば、中東においては最も先進的で開明的な取り組みをしてきたのがカタールなのである。西側諸国の信念、価値観、習慣が最も浸透しているといえる。この急激な西洋化がカタール人の中にゆがみを生んでいるのだという。経済や社会の進歩に伴う自由と選択の幅の広がりは、カタール社会が大切にしてきた根強い社会的価値観としばしば衝突をしているのだ。

 08年に発表された国家開発計画「カタール・ナショナル・ビジョン2030」では、伝統と近代化という二つの力のバランスを取ることが最優先課題にされている。日本にも明治維新の時代に、和魂洋才という言葉があったが、伝統的な精神を失わずに、西洋文明を受け入れている真っ最中ということだ。