サウジアラビア、UAEと比べて
カタール人女性の権利は守られている
そのカタールが抱えるゆがみを象徴するのが、ジェンダーの問題だ。カタール人は日常生活において、ほぼ全員が国民服を着用している。男性は「トーブ」という白い伝統衣装を、女性は黒いアバヤ(マントのようなもの)を着て全身を覆っている。カタール国民は、男女の区別を見た目で明確に分けているのだ。
よって、その境をなくしてしまうようなLGBT+という概念への対処に国民は否定的で、政府としても「違法」という位置付けになっている。
他方、女性の権利については、政府は公にも男女平等を支持している。女性が働き、車を運転し、役職に就くことが許されていて、カタールの大学キャンパスでは女子学生が男子学生の4倍もいる。カタールは、伝統的な文脈と現代的、西洋的な文脈の二つが共存している国なのである。
この点、女性蔑視(べっし)・差別が激しいサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)よりも格段に進歩的といえる。サウジでは、法的に女性は男性に従属し、結婚、親権、相続などについて自己決定権がない。
カタールは、西側から見れば前近代的と思ってしまうのかもしれないが、中東においては進歩的なのである。
友好国・米国はカタールの人権問題に
「知らんぷり」を高らかに宣言
さて、伝統と進歩という矛盾したものが共存しているようなカタールを巡って、中東において緊張関係にあるサウジ、UAE、そして、友好国である米国はどのような対応をしているのか。
米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、W杯の米国代表の応援に訪れた際、カタール政府に対して「毅然とした態度」と「おべっか」を使い分けた。
数千人の米軍を抱えるカタールのアル・ウデイドにある巨大な空軍基地は、21年の混乱したアフガニスタンからの撤退において中心的役割を果たした。そして、世界中のどの基地よりも多くの米国人とアフガニスタンの民間人を避難させた。
これはジョー・バイデン米大統領の窮地を救ったということであり、米国はカタールに大きな借りがあるのだ。ロシアによるウクライナ侵攻後も、ロシアを外交的に孤立させようとする米国を支援し、欧州の液化天然ガス(LNG)市場の安定に貢献している。