そんな事情もあって、ブリンケン氏は次のように述べた。
「この訪問は、カタールとの人権、労働基準、人身売買対策に関する協力の深化をもたらした」「私たちは、カタールが労働慣行を改善するために行った活動を高く評価している」
つまり、人権や労働基準に改善すべき点が存在することを前提としつつも、見て見ぬふりの知らんぷりを高らかに宣言したというわけだ。中国がカタールと同じことをしたらどういう態度に出るのか興味深い。
UAEは陰に陽に
カタールへ圧力をかけ続ける
対する、中東の周辺諸国、特にUAEはカタールに対して厳しい。
オンラインメディア「THE INTERCEPT」(17年11月9日)、さらにその後ニューヨーク・タイムズ(19年2月1日)で報道されたように、UAEがカタールへのネガティブキャンペーンに資金提供していたことが明らかになっている。米国のジャーナリストやシンクタンクを利用して、「小国カタールのW杯単独開催を否定的な位置付けにさせよう、中東全体での共催にさせよう」とする一連のキャンペーンに対してだ。
UAEは、サウジアラビアと一緒になって、カタールが出資するアルジャジーラを封鎖させようとあらゆる機会を狙って圧力をかけ続けてきたことでも知られる。
アルジャジーラは1996年に設立された。世界に70以上の支局があり、中東地域では極めて珍しく、体制批判をしっかりやってきた。そして10年に起きた中東の民主化運動「アラブの春」で、若者のデモを積極的に報じたことが周辺国の反発を招いた。エジプトでは、革命後の政権を担った「ムスリム同胞団」に肩入れしたと見なされて批判を浴びた。
17年にUAE、サウジアラビアといった中東などの4カ国がカタールと国交を断絶すると発表した際も、関係修復の条件として、「アルジャジーラ」の閉鎖を要求している(カタールは、表現の自由の侵害だと拒否)。その後、米国の仲介で、断交は撤回された。
これまで、カタールの周辺諸国が積極的に欧米のコンサルタント会社に資金提供をし、カタールへの憎悪をあおってきた経緯もある。そのことに鑑みても、今回のカタールにおける人権問題の大炎上に、周辺諸国が関与している可能性は否定できない。外交上手の小国カタールが、米国や欧州、中国、イランといった大国とそれぞれに仲が良いのは、周辺諸国にとってみれば脅威であり、嫉妬の対象であるのだ。
W杯が大きな盛り上がりを見せているが、競技場外でのカタールを巡る各国の態度、謀略、二枚舌にも目が離せない。