フェアアイン導入が
日本では難しい理由

 しかし現状、日本でフェアアインのような仕組みを直接導入することは難しいと釜崎氏は語る。フェアアインの導入を阻む障壁の一つは、日本の総合型地域スポーツクラブの成り立ちの違いだ。

「ドイツのフェアアインは、地域住民が主体となって運営する組織です。多くのドイツ人にとって、フェアアインは営利を追求する企業とは異なる目的をもつ組織として意識されているので、日本語では『非営利法人』がもっとも近い言葉といえるでしょう。日本にも、非営利組織であるNPO法人によって運営されている地域スポーツクラブもあります」

 ただ、同じ非営利法人であっても、日本とドイツでは行政とのつながり方が違うという。

「日本のNPO法人は、行政に事業報告書を提出して毎年情報開示をしなければなりませんが、ドイツのフェアアインは提出先が裁判所,つまり司法の管轄なのです。行政からの独立性が高いという点で日本とは異なります」

 フェアアインは、地域住民のコミュニティーのなかで民主的な自治を獲得しており、行政と対等に交渉するのだ。現在の地域移行に関する議論において、日本では行政が主導して部活動の地域移行を進めているが、こうした進め方はそもそもドイツでは起こり得ないとのこと。

「日本では地域スポーツクラブが、行政からの地域移行の要請を受けて準備を進めることになります。つまり、クラブの会員である地域住民の要請によって行政と交渉するフェアアインとは、真逆のベクトルで成り立っています」

 また、ドイツと比較したとき、日本ではスポーツクラブの代表や活動方針を巡って権力争いが起こる可能性を否定できない点も問題だ、と釜崎氏は話す。

「フェアアインの場合は、必ず法人格を取らなければなりません。また、毎年裁判所の審査があるため、民主的なルールにのっとって選挙を行い理事が選出されています。民主的な規約を守れていない場合、法人格を取り消されて優遇税制や補助金がもらえなくなるのです。ドイツ人たちは幼い頃からフェアアインでの経験を通して学ぶのです」

 一方、日本の地域住民が運営する非営利のスポーツ団体には、法人格を取らずに任意団体として活動する団体も少なくない。

「そのため、団体の代表者や活動の方針を決定する場では民主的な手続きを取る必要性が薄いので、関係者の権力争いが起こりやすく、声の大きい人物の意見が通ることも多いと聞きます」