「Aさんの話によると、毎年冬のボーナスは基本給の2カ月分支給されていたとのことですが、実際の計算も同じですか?」
「管理課や総務課などの事務職の場合は、冬のボーナスは基本給の2カ月分がベースになります。管理職と勤務成績が優秀な社員には加算があり、逆に勤務成績が悪い社員の場合、減額することがあります」
「では、Aさんみたいに無断欠勤や遅刻が多いケースだと、勤務成績不良としての減額対象になるわけですね?」
「はい。毎年数人の社員が対象になります。今年の夏のボーナスでも5回遅刻を繰り返した社員に対して8万円減額しました」
遅刻や欠勤に対する減給処分~ノーワーク・ノーペイの原則
C総務部長は、話を続けた。
「その前例があったので、A君も15万円を減額しましたが、本人から反発されると、『減額しすぎたかな』とか、『そもそも減額はダメなのかも』とか、急に不安になってしまったんです」
(1)Aが欠勤や遅刻によって、会社に労働を提供しなかった時間に対して、給料を支払わないことができる。これをノーワーク・ノーペイの原則と言う
(2)(1)による扱いとは別に、就業規則で欠勤、遅刻に対して減給処分扱いとする旨の懲戒規定を設けている場合、制裁として規定に違反した従業員に対して給料から一定額を減額することが可能になる。
(3)減給の制裁をするときは、労働基準法91条の定めにより、1回の金額が平均賃金の1日分の半額、総額が1賃金支払期の10分の1を超えてはならず、この制限を超えた扱いは違法になる。
参考:民法624条1項:労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。(ノーワーク・ノーペイの原則の根拠条文)
(1)上記(2)の扱いを行うためには、就業規則への明記だけではなく、処分に値する合理的な理由が必要で、なおかつしかるべき手順(処分対象者に弁明の機会を与えるなど)を踏まないといけない。そこで手順や処理の煩雑さを防ぐために、給料からはノーワーク・ノーペイの原則に基づく時間分の賃金のみを控除し、賞与から無断欠勤や遅刻行為に対して勤務成績不良とし(この場合は懲戒処分として扱わない)、減額する方法を取ることもできる。
(2)(1)の場合は、そもそも賞与が企業独自の制度であり、賞与額の決定は勤務成績等を勘案した人事査定により行われるので、労働基準法91条による制限は受けないとされている。従ってAに対する15万円の減額が直ちに不当とは言えない。
(3)ただし、他の従業員にも同程度の無断欠勤や遅刻があったにもかかわらず、Aの賞与のみを減額していたり、減額割合が高い場合、その扱いが不当であるとしてAが訴えを起こす可能性がある。訴えが裁判所で認められた場合、甲社はAに対して損害賠償をしなければならない
(4)(3)のような事態を防ぐためには、Aに対して賞与を減額することが、合理性に基づく扱いであるとして、本人にきちんと説明できることが必要である。