タイムズスクエアの夜景写真はイメージです Photo:PIXTA

米国の個人消費の動向を占う11月第4金曜日の大規模セール「ブラックフライデー」の結果は、ネット通販の消費額が前年比2.3%増の91億2000万ドル(約1兆2700億円)で、伸び率は事前予想の1%を上回った(米アドビ調査)。在庫増による値引き拡大が、物価高を警戒していた消費者の消費意欲を刺激したという。これにとどまらず、米国在住の筆者は、「アメリカ国民は値上げに怒っているものの、買い物を減らすほどではなく、むしろ買い物し続けることによって更なるインフレを招いているのではないか」と説く。いったいどういうことか、この仮説を、複数のデータを見つつ明らかにしていこう。(丸紅米国会社ワシントン事務所所長 峰尾洋一)

アメリカ国民はコロナ禍で爆買いしていた!?
データで見るインフレと国民性の実態

「もし声がかすれていたら申し訳ない。今朝2時半まで起きていたのでね」。2022年アメリカ中間選挙翌日の11月9日、民主党員の知人はそう言って満面の笑みを浮かべた。選挙当日まで言われていた「レッドウェーブ」(共和党の圧勝)が起きなかったことは、すでに明らかだった。

 米中間選挙は、上院で民主党が議席を伸ばし、下院で共和党が多数派を奪還した。選挙結果が下馬評を覆したのはなぜか。ざっくり言えば、「共和党の読み違い」だ。共和党は、選挙に影響を与える論点の中で、「インフレへの国民の不満」と「民主党の治安対策」ばかり重視し、「妊娠中絶の是非」を軽んじていたのでは、と筆者は考えている。

 インフレに関しては、「物価高騰で以前より生活が大変だ」と感じるアメリカ国民は確かに増えている。実質可処分所得のデータを見ると、22年9月は15.1兆ドルとなり、コロナ禍になる前の20年2月の15.2兆ドルに比べて減っている。

 とはいえ、その間はどうだったか?

 実は、バイデン大統領肝いりのコロナ対策法案が施行され、個人給付が支給された21年3月には、実質可処分所得が実に19.2兆ドルに跳ね上がっている。

 さらに、実質可処分所得低下(20年2月→22年9月)の内訳を分析すると、雇用者報酬(10.7兆ドル→11.1兆ドル)や移転所得(2.9兆ドル→3.1兆ドル)の増加を、税金など(△3.4兆ドル→△4.0兆ドル)の増加が打ち消した結果であることがわかる。

 アメリカの納税状況をざっくり言うと、納税者の1割弱が6割超の税金を負担していて、低所得者層が負担する税額は比較的小さい。また、低所得者層には政府給付金などの移転所得が多く支払われる。そのため、国民全体の実質可処分所得はコロナ禍前と比べて減少しているものの、低所得者層に限って言えば、手厚い給付金でそれなりの収入を維持している可能性が高い。

 その仮説を下支えする根拠のひとつとして、22年9月時点では、実質個人消費は減っておらず、むしろ微増している(20年8月:14.1兆ドル→22年9月14.2兆ドル)。

 また、日本ではあまり知られていないが、アメリカ人はコロナ期間中に「爆買い」していたといっても過言ではない。そして、足元の物価高でも消費を減らさない(インフレを除いた実質の消費が前月より増えているので、名目で見ればもっと減っていない)のだから、モノやサービスを売る側は値下げをする理由がない。だから高い物価上昇率が維持されている(直近はやや落ち着いてきた感もある)。

 総じて、筆者が思う「アメリカのインフレのリアル」は、値上げに怒りをぶつけるものの、買い物を減らすほど生活に困窮しているわけではなく、買い物し続ける消費者――国民が無意識に自作自演のインフレをプロデュースし、自らがプロデュースしたものに対して怒りを露わにしている――ようにすら感じる。

 いったいどういうことか。この仮説を、次ページ以降、複数のデータを見つつ明らかにしていこう。