65歳以上の高齢者が人口の約3割を占め、少子高齢化が進む日本。有望なビジネス市場と目された介護業界でいま、倒産が急増している。すでに1~11月の倒産は135件に達し、過去最多を記録した2020年の118件を上回っている。倒産の急増は、人手不足とコロナ関連の資金繰り支援効果が薄れてきたことに加え、物価上昇をサービス料金に転嫁しにくい業界特有の構造もある。高齢化社会を前に介護業界で倒産が急増している状況を東京商工リサーチが解説する。(東京商工リサーチ情報部 後藤賢治)
コロナ禍・物価高・人手不足の
三重苦で倒産件数が過去最高に
公的要素が強かった介護事業者の倒産は、2000年代初期は年間数件にとどまっていた。だが、将来有望と見込まれた市場に介護事業者が相次いで進出し、一気に過当競争が巻き起こり、倒産は増勢基調をたどった。
2002年以降の介護事業者の倒産件数および負債総額は、グラフの通りだ。
2009年度の介護報酬の大幅なプラス改定で、いったん減少に転じたが、コスト上昇の中で2015年以降は介護報酬の改定は低水準だったため、再び増勢に転じた。この頃からヘルパーなど介護補助者の人手不足が深刻になり、人件費の上昇が収益を圧迫するようになった。さらにヘルパーなどの高齢化も重なり、2016年以降の倒産は100件超で高止まりした。
2020年は新型コロナ感染拡大が介護業界を直撃した。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などで外出自粛を要請され、高齢者や家族もまた感染を恐れて介護事業者の利用を控えるようになった。こうした感染防止策への出費と収入ダウンがダブルパンチとなって経営を圧迫。実際、施設内のクラスターやヘルパーのコロナ感染で通常運営が難しくなったケースもあり、倒産は過去最多の118件に達した。
2021年は政府や自治体のコロナ関連支援や介護報酬のプラス改定が下支えし、倒産は前年比31.3%減の81件と大幅に減少。2015年以来、6年ぶりに100件を下回った。
ところが、2022年は長引くコロナ禍で資金繰り支援効果も薄れたところに、円安や物価高で光熱費や燃料費、介護用品が急激に値上がりした。さらに、コロナ禍で隠れていた人手不足が経済活動の再開で顕在化し、介護業界は物価と人件費上昇、そして人手不足が同時に表面化した。
一般的な介護サービスは、介護保険で金額が決められている。そのため他業界のように仕入価格の上昇分を販売価格に転嫁することは難しい。こうした幾重もの経営リスクの荒波にもまれ、2022年の倒産は1~11月までに135件発生し、倒産の最多記録を塗り替えた。