「残りの人生」をどう生きるか

――堀さんはご闘病後、さらにパワフルになられたように感じます。来年にはデビュー40周年ライブを控えてらっしゃるそうですね。

堀:はい。これまではファンの方のために歌っていたのですが、今は自分のために歌いたいという思いが湧いてきました。

 そうやって自分のために歌うことで、ファンのみなさんのためになればと思っています。

 まず自分のために、自分が楽しみたいからやることが大切だと思います。

 歌のためのレッスンも誰かのためにがんばるのではなく、堀ちえみという歌手の人生のためにがんばっています。40周年のステージも自分への贈り物のようなものです。

――仕事をなかなか楽しいものだと考えられない人も多いです。仕事が嫌でしかたない人は仕事を辞めるのもアリでしょうか。

堀:嫌な仕事でも、それを乗り越えることで自分が何か得るものがあればやる意味はあるとは思います。

 でもなんのために嫌なことをやっているのかを見出せないのであれば、やる必要はないと思います。

 これはもう決まっていることだからと、惰性でやっているとストレスがたまる一方です。

――ご著書の『今はつらくても、きっと前を向ける』(堀ちえみ・清水研共著/ビジネス社刊)にも、以前だったら引き受けていた仕事を断るようになったと書かれていました。

堀:闘病を経て自宅で療養をしている間に、「残りの人生を考えたときに、どういった仕事が自分のためになるのだろうか」と考えて、すべての仕事をいったんリセットすることにしました。

 闘病前の仕事を続けると、以前の無理をしてしまう自分に戻って、また病気になってしまうかもしれない、それでは負のスパイラルから抜け出せないなと思ったんです。

――仕事に違和感を覚えていても、この仕事を辞めたら、他の仕事に就けないかもしれない、と思って無理をし続けてしまう人も多いですよね。

堀:もちろん食べていかなければいけないと思ったら続ければいいし、別のことをやったほうが自分は幸せになれるかもしれないと思ったら、思いきって辞めてもいいのではないでしょうか。

 大切なのは「自分がどうしたいか」を基準に決めることだと思います。

――堀さんが、「残りの人生」を意識するようになったのはご闘病がきっかけでしょうか。

堀:はい。以前は今の生活がずっと続くとばかり思っていて、死を強く意識したことはありませんでした。

 けれども、病気になってから、明日何が起きるかわからない、今を楽しまないと損だなと単純にそう思うようになりました。

 歯を食いしばって必死に生きたとしても、「自分はいったい何をやっているんだろう?」と思ってしまってはもったいないですよね。

――最後に、『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』をどんな人におすすめしたいですか?

堀:この本の帯にも「私たちの幸せは『自由」にある」と書かれていますが、何かに縛られて人生を楽しめていない状態は、本当に幸せなのかと問いたくなります。

 今って意外と自由なようで自由ではない世の中ですよね。

 スマートフォンが普及して常に情報に振り回されています。

 いつでも仕事ができる便利さはありますが、解放される時間はありません。

 一番危険なのは「束縛されていることでの安心感」かもしれません。

 自由と解放は人間にとっての一番の幸せだと思います。

 みなさん平和や愛については、なんとなくわかっていても、自由の大切さについてはわかっていないかもしれない。

 この本は自分の幸せが何かがわからない、ちょっと人生を立ち止まって考えたくなった人にぜひ読んでいただきたいですね。

堀ちえみ、闘病を通して気づいたこと。「残りの人生」をどう自分らしく生きるかPhoto by ryoco
堀ちえみ(ほり・ちえみ)
歌手・タレント
1967年2月15日、大阪府堺市出身。第6回ホリプロタレントスカウトキャラバンで芸能界入りし、1982年3月「潮風の少女」でデビュー。1983年に出演したドラマ「スチュワーデス物語」が日本中で大ヒットし、アイドルとして歌にドラマに活躍。7児の母として、テレビ出演の他、教育や食育にまつわるトークショー、音楽活動など幅広く活動していたが、2019年1月にステージ4の舌がんと診断され、舌の6割以上と、首リンパに転移していた腫瘍を同時に切除する大手術を受ける。その後、リハビリに励んで順調に回復し、2020年1月より仕事に復帰。現在は芸能活動の傍ら、口腔がん撲滅運動に参加するなど、自身の体験をがんの知識の啓蒙に役立てたいと願い、活動の幅を広げている。2022年デビュー40周年を迎え、日々ボイストレーニングやリハビリを行い、2023年に40周年のアニバーサリーコンサートを開催決定。