賃金増、人手不足、失業率下げ渋りが共存――。2023年の「雇用・賃金」は、高水準となりそうな春闘賃上げ率などプラス材料も多い一方で、世界的なコスト高など懸念材料も多い。特集『総予測2023』の本稿では、日本総合研究所の山田久副理事長に、23年の雇用賃金の状況を徹底分析してもらった。
世界的に高インフレが顕在化
人手不足と賃金上昇圧力に
2020年代に入り、新型コロナウイルスのパンデミックとロシアのウクライナ侵攻という歴史的出来事が起こり、世界のパラダイムが大きく変わりつつある。
新たなパラダイムの基調となるのは「供給制約・コスト高」だ。「グリーンディール」をコロナ禍からの経済再生の推進力に位置付けた欧州の戦略にけん引される形で、脱炭素の潮流が世界的に強まっている。
もっとも、化石燃料依存を脱して、再生可能エネルギーを主軸とした新システムに完全移行するにはなお時間を要する。そうした中で、ウクライナ紛争の勃発によりエネルギー制約が一気に深刻化してきている。
また、コロナ禍の起源や対応策の優位性を巡る政治的プロパガンダが米中対立を一層強めて、経済効率よりも安全保障が優先される時代が到来。生産・物流・管理の各コストの上昇は避けられない。
さらに、パンデミックは国際労働移動を妨げるとともに、既婚女性とシニアの就労に対して抑制ファクターとして作用。労働力不足の原因になっている。
以上の幾つもの要因が重なったことが、21年に入って一気に世界的な高インフレが顕在化した背景にある。つまり、需要超過より供給制約がインフレの原因であり、各国の中央銀行は利上げを急いでいるが、インフレ沈静化には時間がかかるとみるのが妥当であろう。
そうした世界的な動向は少し遅れてわが国にも押し寄せており、その影響が強まるのが23年となろう。労働市場にはそれは、「人手不足」と「賃金上昇圧力」として表れることになる。