総予測2023#17

2005年8月のジャクソンホール会議で、米国住宅バブルのさなかに金融危機のリスクを警告し、当時半ば神格化されていたグリーンスパン氏を批判した稀有なエコノミストこそが、米シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスのラグラム・ラジャン教授(元インド中銀総裁)だ。特集『総予測2023』の本稿では、同氏に現下の世界経済が直面するリスクなどを直撃。すると、金融セクターのある分野に「次の危機」の芽がある、と明らかにした。さらに、23年の米経済は「50%超」の確率でリセッション(景気後退)に陥ると“予言”した。「ラジャンの大予言」を大公開する。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)

「週刊ダイヤモンド」2022年12月24日・31日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

世界金融危機の“預言者”が
「次の危機」の萌芽に警鐘

――高インフレがグローバルな新潮流となっています。

 高インフレについては、分析に足るデータのほとんどが1970年代~80年代前半に固まり、予測が非常に難しいと感じています。労働市場の性質からインフレ期待の在り方まで、世界は当時から大きく変化しています。

 70年代は長期にわたり高インフレが続きました。そのため、例えばFRB(米連邦準備制度理事会)のボルカー議長(当時)が積極的な金融引き締めでインフレ抑制を試みた際は、人々にインフレ期待が定着した状態で始まり、大きな困難を伴いました。

 今は当時とは違います。現下のFRBが現実化を恐れているのは、人々のインフレ期待が高まり、一種の賃金スパイラルに陥ることです。つまり、高いインフレ率故に人々が高い賃金を求め、それがさらなる物価上昇をもたらすという悪循環のシナリオです。

Raghuram RajanRaghuram Rajan/シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス教授。2003~06年IMF(国際通貨基金)のチーフエコノミストおよび調査局長、13~16年インド準備銀行総裁を務める。05年のジャクソンホール会議で、世界金融危機の3年前に、その発生を懸念した発表を行い注目される。

 インフレ率が目標内に収まるのは、24年ごろというのが、最も楽観的なシナリオでしょう。ですが、本格的な景気後退が起こらない限り、それより前にインフレが沈静化するとは考えづらいし、今のところその可能性は低いと思います。

――ラジャン氏は世界金融危機の約3年前、ジャクソンホール会議でその発生を懸念した発表を行い、注目を集めました。世界が再び金融危機に陥るリスクをどう捉えていますか。

 非常に重要な問いです。世界的な金融危機の際と比べれば、銀行セクターは分厚い資本で守られていると思います。しかし、決してそれだけでは安心できません。

次ページでは、ラジャン氏が「次の金融危機」につながりかねないと危惧するリスクの具体的な内容を回答。さらに、23年の米経済が「50%超」の確率で景気後退に陥る根拠、元インド中銀総裁の同氏が考える「ポスト黒田体制」の日銀が直面する困難、祖国のインド経済の「期待と課題」まで、同氏へのインタビューの全貌を明らかにする。