【お寺の掲示板114】仏さまのまなざしで日々の暮らしを考える写真左:雲西寺(大分)投稿者:@unsaiji [2022年8月6日] 写真右:本明寺(東京)投稿者:@honmyouji271 [2022年9月2日] 

年末恒例「お寺の掲示板大賞」の受賞作品を2回連続でご紹介してまいりました。3回目となる今回は、二つの「仏教伝道協会賞」も含む五つの受賞作品を取り上げます。皆さんはどの掲示板が心に残りましたでしょうか。(解説/僧侶 江田智昭)

仏さま目線の「修行」と「感謝」

 前回に続いて、残り二つの「仏教伝道協会賞」受賞作品をご紹介します。まずは大分県中津市にある浄土真宗本願寺派雲西寺の作品「修行がたらん」です。この掲示板の形に見覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。この受賞作も、実にシンプルですが、たるんだ心に活を入れる掲示板といえます。講評は以下の通りです。

一見、「修行がたらん!」と叱られているようですが、左から読むと、「たらんが修行」。「いくらしても足りないのが修行だよ」というメッセージが隠されているようにも思えます。人生は修行に譬(たと)えられることがよくありますが、どんなに歳を重ねても人生(修行)の中で悩み、不満を感じることがあるのではないでしょうか。「修行が無用」と思われがちな浄土真宗のお寺に掲示されている点も興味深いところだといえます。

 雲西寺は、毎年非常にインパクトの強い掲示板を投稿されています。中でも、以前取り上げさせていただいた「ばれているぜ」(連載28回目)は秀逸でした。雲西寺の作品を見ると、そのほとんどが仏さまの目線から発せられた言葉で書かれています。

 今回の作品にあるように、どんな人も修行は足りません。とはいえ、これは人々に修行を強く促しているわけではありません。浄土真宗の寺院として、「どんな修行も満足に修めることをできない私を救う仏さま(阿弥陀仏)がいることに気付いてほしい」というメッセージが、この短い言葉の中に含まれているように思えます。

「仏教伝道協会賞」三つ目の受賞作品は、東京都墨田区にある真宗大谷派本明寺の作品「私はいま多くの死者の上に立っている そのことを忘れてはいけない」です。この世界の中で、私たちは生きている人間しか見ることができませんし、思い出す死者といえば、ごく親しい人に限られます。講評は以下の通りです。

私たちは、無数の死者のおかげでこの世に生を受けて、現在生活を送っています。ある調査によると、いままでの地球上の人間の死者数の累計は約1000億人になるそうです。このような無数の死者の方々に対して感謝やつながりの気持ちを持ちながら、生活を送りたいものです。

 累計死者数(約1000億人)に比べると、現在生きている人間(約80億人)は完全な少数派になります。地球上に生きる限り、死者(多数派)に対するリスペクトを忘れず、謙虚な気持ちで生活を送ることが大切ではないでしょうか。