次世代にプレコンセプションケアをどう伝えていくべきか
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
経営者、教育者、論理学者
1977年生まれ。スタンフォード大学哲学博士。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。教育テクノロジーとオンライン教育の世界的リーダーとして活躍。コロナ禍でリモート化が急務の世界の教育界で、のべ50ヵ国・2万人以上の教育者を支援。スタンフォード大学のリーダーの一員として、同大学のオンライン化も牽引した。スタンフォード大学哲学部で博士号取得後、講師を経て同大学内にオンラインハイスクールを立ち上げるプロジェクトに参加。オンラインにもかかわらず、同校を近年全米トップ10の常連に、2020年には全米の大学進学校1位にまで押し上げる。世界30ヵ国、全米48州から900人の天才児たちを集め、世界屈指の大学から選りすぐりの学術・教育のエキスパートが100人体制でサポート。設立15年目。反転授業を取り入れ、世界トップのクオリティ教育を実現させたことで、アメリカのみならず世界の教育界で大きな注目を集める。本書が初の著書。
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星:次に、親が子どもにプレコンセプションケアを教えようと思ったときに、どんなことに注意すべきでしょうか?
三戸:まず現状の日本では、プレコンセプションケアも性教育も、教育のシステムや教材が追いついていません。
私自身、高校生のときに医師の菅沼安嬉子先生から健康教育を授業で受け、健康的に生きる基本を習い、その後の日常生活に大きな影響を受けました。
今、必要なのは、早期の専門家によるプレコンセプションケア教育や性教育、それも子どもだけでなく、親と子に対する教育が重要だと思います。
実際、親世代も学生時代に性教育を十分に受けておらず、子どもたちにどう教えたらいいかわからない人が多数です。
私は日本の中学・高校・大学生にプレコンセプションケアを教えていますが、数年前に高校でプレコンセプションケアの課外授業をしたとき、「多くの情報はあるが、どれを信じていいかわからないので専門家の話を聞きたい」という人ばかりでした。
子どもが子宮頸がんワクチンを打ちたいと思っても親御さんに反対されたケースもあります。
そのような現状を踏まえ、まずは健康に関するリテラシーを親と子両方で上げていくことが大切です。
成育医療研究センターのプレコンセプションケアセンターのホームページでは、先ほど紹介した「プレコンセプションチェックプラン」を公表。将来の妊娠・出産を考えた検診と専門医師・管理栄養士によるカウンセリングも行っています。
数年前、私のところに母親とともに女子中学生がカウンセリングにきました。
その子が高校生になり、最近、私に連絡をくれました。
彼女はこう言いました。
「高校入学後、まわりの友人たちがやせたいと無理なダイエットをしている。
私はそれが将来、自分の妊娠・出産に悪影響があることをカウンセリングを通じて学んだ。だから友人にそのリスクを教えてあげたい。先生、インタビューさせてもらえますか?」
このように、若い人たちがプレコンセプションケアの重要性を感じ、社会を変えていくのではないかと思うと、とても励みになりました。
そこで今、私は親子でプレコンセプションケアのリテラシーを上げる教育プログラムを作成中です。
これからの時代、家庭でも恥ずかしがらずに、「性や妊娠・出産」について話題にすることが必要になってきます。
星:前回の対談では、プレコンセプションケアにおいて妊娠・出産はゴールではなく「ファミリープラン」の一部として捉えられるという話がありました。
その切り口を使うと、本題に入りやすくなりそうですね。
「どんな夢を持っているか」
「どんな人生を送りたいか」
「どんな仕事をしたいか」
「結婚したいか」
「子どもがほしいか」
など、いきなり「性や妊娠・出産」の話にいかなくてもいいので。
三戸:そうですね。実際に高校生から、
「なぜ人と人は家族になるのか」
「なぜ子どもをつくらないといけないのか」
といった質問を受けますが、こんな問いから、プレコンセプションケアや性教育のきっかけにするのもいいかもしれません。
星:ただ、ファミリープランについて親子や世代が離れた者同士で話す場合、年代や風習、さらには思い込みによる「あるべき家族の姿」の押しつけに終始しないよう気をつける必要がありますね。
三戸:そうです。率直に湧き出た疑問や、自分の将来を考えるところから始め、パートナーや家族のことをオープンな気持ちで考えていきたい。
話し相手は、親と子だけでなく、近所のおじちゃんやおばちゃん、先生でもいいと思います。
自分のことを正直に話せる信頼できる大人が複数いるといいですね。
社会全体で科学的な知識をもとに、妊娠・出産・性について明るく率直に話せる場があると、次世代を守ることにつながっていきます。