「外資」がインフレの引き金を引く時
本当はこの段階で量的引き締めが必要になるのですが、財政状況が極度に悪化している日本ではそれは不可能です。量的引き締めを進める世界と、量的緩和を止められない日本。その差によってさらに円安は進んでいきます。
すると、その先に何が起こるのか。世界はきっと、インフレにも円安にも何ら手を打たない日本に対して不信感を持ち始めることでしょう。そして、その不信感が頂点に達した時、まさに先日のイギリスと同じように、一気に「日本売り」が行われる危険性があります。
その引き金を引く可能性があると私が考えているのが、「外資の取引枠」です。
私が三井信託銀行を経てモルガン銀行に入って驚いたことの一つに、外資系投資銀行のリスク管理の厳しさがあります。当時、日本の銀行においては、G7の国相手ならばその国の政府や中央銀行には取引枠などなく、青天井に取引ができました。しかし、外資系投資銀行ではG7国にすら、取引枠を設けていたのです。つまり、世界をリードするような国、そしてその中央銀行ですら、破たんするリスクがあると見ていたということになります。
具体的には、銀行の審査部がその国の政府や中央銀行の状況をもとにリスクを分析し、取引枠を増減させます。これは民間企業に対しては当たり前の話ですが、それを国や中央銀行にも適用しているのが外資系投資銀行なのです。
転職直後、この外資のリスクヘッジの厳しさを知らずに肝を冷やしたことがあります。
当時、日本の銀行間市場での余剰資金の取引には、短資会社という仲介業者を使う必要がありました。この短資会社は日銀職員の天下り先でもあり、日本の金融システムに組み込まれていました。
当然、モルガン銀行も短資会社を利用していたのですが、ある時本社が「短資会社の資本があまりにも小さくリスクがあるので、大きな取引をしてはいけない」とクレームを付けてきたのです。短資会社が使えないとなると、日本での業務は事実上ストップです。そうなれば、せっかく思いきって転職したのに、失業してまた職探しです。
私は必死になって「短資会社は日本の金融界にとって不可欠」「日銀職員の天下り先でもあるので、日銀が決して潰したりしない」と熱弁し、どうにか取引の継続を認めてもらったのです。
この例外が認めてもらえたのは、おそらくは勃興しつつある日本市場から撤退するのは得策ではないという判断もあったのでしょう。ただ、それ以来、私の中では外資系投資銀行のリスク管理の厳しさが強く刻み込まれました。
こうした「外資の常識」は、今でも変わりません。つまり、外資系金融機関は国であろうと中央銀行であろうと、危ないと思ったらとたんに取引を減らす、あるいは取引枠そのものをなくすということが十分考えられるのです。