アニメ監督は「カット」と叫ばない!現場の仕事をプリキュア手掛けた監督が解説boonchai wedmakawand/gettyimages

実写作品の監督とは異なり、アニメ監督の仕事内容は一般的にあまり知られていない。現実世界での撮影は行わないので、実写のドラマや映画のように監督が「カット!」と叫ぶ必要もない。では、アニメ監督は具体的に何をしているのか。監督の仕事を周りで支えるスタッフはどんな人たちなのか。劇場版『ONE PIECE』やTVアニメ『プリキュア』シリーズを担当した経験を持ち、書籍『アニメができるまで』を上梓した大塚隆史監督に、その仕事内容を聞いた。(執筆/フリーライター 堀田孝之、取材協力/アニメ監督 大塚隆史)

監督になったらまず何をする?
プリキュア手掛けた監督に聞いてみた

 実写のドラマや映画の監督は、俳優に演技指導をしたり、撮影現場で「カット!」と威勢良く叫んでいたりと、なんとなくその仕事内容を想像できる。

 でも、アニメの監督はどうだろう。アニメーターに向かって「カット!」と叫んでいる姿は見たことがない。声優には演技指導をしているようだが、まさかそれだけが監督の仕事というわけではないだろう。

 アニメ監督は一体、仕事現場で何をしているのか――。劇場版『ONE PIECE』やTVアニメ『プリキュア』シリーズを担当した大塚隆史監督に、TVアニメの監督を引き受けたら、具体的にどんな仕事をしていくのか聞いてみた。

「僕の場合はまず、プロデューサーと相談しながら、作品のビジョンを明確にします。全世代に楽しんでもらうメジャー志向の作品にするのか、熱烈な原作ファンに楽しんでもらうのか。それとも、子どもに楽しんでもらうのか。ターゲットを明確にし、そこから作品のイメージを具体化していく。この作業で定まったものがビジョンです」(大塚監督、以下同)

 大塚監督によると、ビジョンがいい加減だと、質の悪いアニメになりかねないという。

 例えば『アンパンマン』をアニメにするとき、ビジョンを曖昧にしたまま「リアルな作画や背景」にしてしまったら、原作の魅力を壊してしまうことになる。

 描写がリアルであれば、アンパンマンが自分の顔を他のキャラに食べさせるシーンがグロテスクになり、きっと子どもは泣いてしまうだろう。作品のターゲットは幼児なのに、幼児が楽しめないアニメになってしまうのだ。