*本稿は、現在発売中の紙媒体(雑誌)「息子・娘を入れたい会社2023」の「親子で考える『本当に良い会社』」を転載し、一部加筆したもので、内容は取材時のものです。
「シシンヨー」が愛称の広島市信用組合。ここで徹底した「現場主義」を貫く山本明弘理事長の経営手腕は、全国の金融機関から注目されている。就活生に向けて、地域金融機関の使命などを聞いた山本理事長へのインタビューを上・下2回に分けてご紹介する。(上)では、経営における信念に迫る。(取材・文/ダイヤモンド社 ヴァーティカルメディア編集部 松野友美)
預金と融資の
本来業務だけに特化
――地域金融機関として、どういった存在を目指していますか。
うちは、広島県の中小零細企業の町医者であり、町の交番のような存在です。だからお客さんの悩みにスピード感をもって対応する。
中小零細企業は今コロナ禍で経営が厳しい。今年から一段と厳しくなっていくと思う。そこでリスクテイクして支援する金融機関でないと、存在意義がない。
――他の金融機関との違いは。
他が決算書を見て融資を判断するところを、うちは特に現場主義。汗水流して、徹底的に歩くフットワークと、フェース・トゥ・フェースを重視しています。渉外の担当者だけでなく、支店長も、私も歩いて重層管理をする。
よそは、お客さんを一件ずつ訪問することを非効率と言いますが、うちにとってはそれが最大の効率
だからうちは、預金と融資の本来業務だけに特化しています。
――融資先の「現場」では、何を注視していますか。
私は、必ず饅頭を持っていくんです。別に「どうぞ」とかは言わないで、ポンっと置いて、経営者といろんな話をします。
その時に、黒板1つにしても、見る。例えば建設会社だったら、「えらい昔の工事のことが書いてあるな」とか分かる。礼儀作法も見る。さらに、職員が生き生きしているかも確認する。
事務所や工場が整理整頓されているか、製造ラインは動いているか、店舗の雰囲気はいいか、一番大事な経営者の人間性はどうか……。そういうのを見て、この企業は成長性があるかとか、技術力があるかとかを判断する。
これをやらずにリモートで話すだけでは、実態が分からない。
もちろん、デジタル化はします。しかし、この幹の部分を変えてはいけない。
そもそも地元の取引先の皆さんがわざわざ信組に足を運んでくれることは、基本的に少ないんです。それを知らずに現場に行くことをおろそかにすると、預金残高や融資残高も減ってしまいます。