山本明弘・広島市信用組合理事長が貫く“現場主義”、「他と同じ考え方をしとっちゃあ、つまらんのです」Photo by Masato Kato

よそと同じ考え方では
つまらない

――――今、メガバンクや地銀などは、コンサルティングサービスを提供したり、金融商品を販売したりして手数料を得るフィービジネスを拡大させています。

 手数料収入を得なければいけないことは事実です。

 近年「貯蓄から投資へ」という考え方が広がっています。でも、投資の素人が投資信託を買ってその値が後で大幅に下がったとか、いろんな保険を売って損失が出たとかで問題になった例がある。

 お客さんを泣かせてまで、利益を上げようという考えは私にはない。それよりも、お客さんが苦しい時にリスクを取る。ミドルリスク・ミドルリターンで融資します。

 他の金融機関と同じ考え方をしとっちゃあ、つまらんのです。

――――ミドルリスク、ミドルリターンとは。

 今の自己資本の状況では、1先につき最大153億円まで融資できます。ですが、リスクを分散させるために1社につき20億円以下にすることを役員会議で決めています。小口多数でいこうじゃないかと。

 それでまずお客さんが喜んで成長していく。そうなると、当組合に必ずリターンがあるわけです。

 今このコロナ禍で、よその金融機関がリスクを取らなくなった。これはうちが頼りにされるビッグチャンス。実際、どんどん預金や融資先を紹介され、財務面も筋肉質になっています。

――――融資の判断も早いです。

 融資するかどうかは、稟議が本部に上がってから3日以内に判断します。そのために役員は毎日朝6時半からオフィスで会議する。

 日本全国こんなに早く決断しているところは他にない。

 これはお客さんのためであると同時に、支店長や担当者の仕事をやりやすくするためでもある。

 融資を本部に申し込み、1カ月経っても結論が出ないと、支店長は土日も融資の結果が心配で面白くないんです。

――――2022年3月期の業績は、実質業務純益が20期連続で増益。業績は好調です。

 コロナ禍でも、対策を講じて対面の渉外活動を徹底して続けた。今まで以上に歩くよう指示し、例えば、支店長は1日に12、13件訪問していたところを18、19、20件訪問するように、と。

 だからこの2、3年も預金・融資の実績はともに右肩上がりです。今後、預金は3年半、融資は4年半での1兆円を目指しています。

 客観的にも、日本格付研究所から格付け「A」、見通し「ポジティブ」の格付けを取得しています。

 全国に145ある信用組合の中で格付けを取得しているのはうちだけ。254ある信用金庫を合わせても13機関しか格付けされていませんが、うちは上から3番目です。

――――融資について、多くの金融機関が慎重になっていますが、その中で拡大できるのはなぜですか。

 ただ預金・融資残高を上げればいいのではない。不良債権の処理を徹底しています。