ちなみに、百貨店とは、経産省の定義では、衣・食・住の商品群の販売額がいずれも10%以上70%未満の範囲内にある事業所で、かつ、従業者が常時50人以上は働ける環境下にある。そして、売り場面積が3000平方メートル以上を満たしていて、一つの大きな小売業のなかに専門店を含めさまざまな売り場を構成しているものだ。

 一方の専門店の集合体であるショッピング・モールは、どちらかというとデベロッパーの不動産賃貸業とみなすとわかりやすいであろう。同じように「箱貸し」をしている両者だが、詳しく見るとこうした違いがある。

顧客満足度の高いヨドバシが
そごう・西武にもたらすもの

 さて、ヨドバシの経営の特徴は、マーケティングで言うところの「L.T.V.(ライフ・タイム・バリュー)」という考え方にある。

 L.T.V.とは、Life Time Valueの略で、「顧客生涯価値」と訳される。一生涯のうち、一人の顧客、あるいは一つの企業がどれくらい自社にお金(利益)を落としてくれるかを指標にするもの。短期的な目先の売り上げ確保に走るのではなく、長期的な視野で顧客との関係性を構築することを目指す。

 L.T.V. = 購買単価×購買頻度×継続期間

 だからこそ、イニシャルコスト(初期投資)がかかっても長期間の年月をかけて償却することでランニングコスト(継続費用)を抑え、長期経営で収益化をはかっている。そのため、ヨドバシは自社の取得物件が多く、ゆくゆくはそごう・西武の土地・建物も購入する動きをみせるのではないだろうか。

 また、ヨドバシでは、主な商品と関連する商品を合わせて買う行動で、「合わせ買い」とも呼ばれる「関連購買」を積極的に仕掛けている。例えば、パソコン売り場には、セキュリティーソフトのPOPが置かれ、パソコンを買った人がセキュリティーソフトなど関連商品を買うように促している。

 関連購買は、他の量販店では不採用だったこともあるものだが、ヨドバシでは取り入れている。

 パソコンとセキュリティーソフト担当の売り上げ予算は違い、自分の売り場面積の割合による費用負担もある。それでも、他の商品を案内するのはご法度という考えはなく、「顧客志向」で、お客が利用すると便利な提案をする姿勢が根付いている。

 高付加価値のプロが使用する商品も充実している。これは初心者が初級のものだけではなく、中級から上級の利用体験を得る機会を提供しているとともに、顧客のライフステージに合わせているからだ。これも、長期のお付き合いには欠かせない販売戦略である。

 その経営手法は、顧客にも評価されている。ヨドバシは13年連続、家電量販店部門では顧客満足度1位であり、また9年連続、同グループのヨドバシ・ドット・コムは通信販売部門でも顧客満足度1位を獲得している(ともにサービス産業生産性協議会「JCSI〈日本版顧客満足度指数〉」)。この姿勢は、そごう・西武の経営にも生かされていく可能性は高い。

 ヨドバシでは、東京23区エリアと一部都市で、商品を最短2時間30分で届ける「ヨドバシエクストリーム」便を導入している。全品が送料無料で、かつ年会費も無料。1品から送料無料である理由も、L.T.V.の考え方で説明がつく。たとえ、その1回は赤字配達でも、購買頻度と継続期間が増えればいいのだ。

 また、ヨドバシの店頭商品にあるバーコード付きの値札をアプリで読み取るとヨドバシの通販サイトにつながる。店舗にいてもそのままネットで買い物ができるという仕組みを構築。キャンペーンやタイムセール特価を除けば、店舗と通販サイトの価格は同一である。日本で初めて量販店に導入したポイントシステムも利用が可能だ。

 これは、ヨドバシとして全体の売り上げが上がるのでよい、という同社の考えに由来する。

 また、エクストリーム便では、Amazonや楽天に見られるように、他の配送業者に配達業務をゆだねることはない。自社のスタッフ(社員か契約社員)が「お買い上げありがとうございました」と丁寧な挨拶とともに商品を運ぶ。また、渡す際には、印鑑やサインを廃止している。ヨドバシが責任を持ち配送しているからできることだ。ここにも、顧客志向でL.T.V.の考え方が浸透している。

 さらには現在、神奈川県川崎市キングスカイフロントに立地する物流センターを、延べ約33万平方メートル(東京ドーム7個分)に拡大する構想もある。

デパ地下改め「ヨド地下」が誕生する?

 このエクストリーム便のシステムをそごう・西武にも拡大する、というのは言い過ぎではないかもしれない。このシステムを活用して総菜、弁当を取り扱い、デパ地下改め「ヨド地下」になる未来は夢物語ではなく、難しいことではないと筆者は考える。