「バリキャリ」「ゆるキャリ」のどちらでもない
「フルキャリ」が増えてきた

野村総合研究所・武田佳奈氏が就活生向けにこれからのキャリアを分析。「多様性が認められる中、自律的にスキルアップが必要」たけだ・かな/野村総合研究所 未来創発センター グローバル産業・経営研究室 エキスパート研究員
1979年東京都生まれ。2004年慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年、野村総合研究所入社。十数年にわたり官公庁向けの政策立案支援や実行支援を担当後、民間企業の事業戦略立案や新規事業創造支援に従事。働く人全般を対象に、マクロとミクロの両方の視点から雇用者・被雇用者の課題を解決するための調査や提言、講演を行っている。2018年4月より現職。著書に『フルキャリマネジメント 子育てしながら働く部下を持つマネジャーの心得』(東洋経済新報社)。写真提供/野村総合研究所

 これは、私が7年前に提唱した「フルキャリ」にも当てはまります。キャリアを追求してバリバリ仕事する「バリキャリ」、キャリアより私生活を優先する「ゆるキャリ」のどちらでもなく、仕事と私生活の両方について前向きに取り組む人を「フルキャリ」と定義し、今後増えていくと発表しましたが、実際そうなっているのです。

 正確に言えば、当時から潜在的にはフルキャリは多くいたのですが、この7年間で彼らが「バリキャリ」か「ゆるキャリ」かのどちらかを選ばず「フルキャリ」のまま働き、キャリアを重ねることはできないかと試行錯誤し始めたのです。そうした個々の努力があり、社会での認知や制度整備などが進んで、フルキャリを表明する人が増えてきたのだと思います。

 育児、介護、闘病など、個人としてないがしろにできないことと、仕事を両立させる、そうした多様な働き方を志向する人を、少しずつですが、会社が支援し、評価し、活用するようになっています。

 実はそれは、現実的な要因がもたらしています。日本社会全体が人材不足で、多くの人に働いてもらいたいということと同時に、多様な人を会社が適切に生かしていかなければ競争力を維持できないからです。多様な人材を生かせる企業でなければ、働く人に選ばれなくなっているのです。

 近年、企業の人事施策では、上司と部下の対話が従来以上に重視されるようになっています。

「1on1(ワン・オン・ワン)ミーティング」という上司と部下が一対一で行う面談では、半期に一度などであったこれまでよりも短い間隔で頻度高く、今やっている仕事の目標と課題を将来のキャリアを考慮しながら、きめ細かく話し合うようになっています。

 その根源には、一人一人の働きがいの尊重があります。社員は「自分が成長できている、貢献できている」という実感を持てて初めて、仕事にやりがいを感じ、存分に能力を発揮できるからです。

 評価についても、今はまだ過渡期ですが、一人の上司の経験値によるのではなく、データを蓄積し、多面的に評価して、その結果を育成にも生かし、ひいては企業の成長につなげる「人材DX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進する企業も増えています。

 従業員を支援する会社の仕組みや制度は、重要です。就職先の選択において、その充実度の確認は不可欠です。

 ただし、優れた制度が導入されていても、その運用状況に加え、職場の風土や働く人との相性など、実際に働いてみないと分からない要素が多いものです。

 仕事では、誰もが壁にぶつかります。そんなとき、困難を乗り越えるよりどころをどれだけ持てるかが大切で、その一つは仕事への思いです。

 その意味で、就活に際して自分でできる最も重要なことは、「これまでの人生で、自分が生き生きできると感じたことは何だったか、やりがいを感じる瞬間はどんな時だったか」を振り返り、「自分はどういう仕事、どういう働き方ができると、やりがいを感じて、自分の力が発揮できそうなのか」について、自分と向き合って、しっかり考えることだと私は考えます。