デザインの「繋ぐ力」でソニーの未来を可視化する、クリエイティブセンターの挑戦〈後編〉

社内と社外、社会性と事業性、長期的なビジョンと短期的なビジネス課題……。新しい事業を創造しようとするとき、強いアイデンティティを構築するためには、異質なものを丁寧に繋ぎ合わせる作業が不可欠だ。ソニーグループでこの役割を担うのが、インハウスデザイン組織のクリエイティブセンターである。ソニーが挑戦した革新的なモビリティのプロジェクト「VISION-S」と、本田技研工業との提携において「デザイン」はどのように貢献したのか。初期段階から「Creative Hub」としてプロジェクトをけん引したクリエイティブセンター長の石井大輔氏が語る。(前編はこちら)

モビリティの進化へクリエイティブセンターがどう貢献できるか

 ソニーは過去に数々の異業種を立ち上げてきた。その経験から、私たちは「未来は訪れるものではなく、自ら探し、生み出すものだ」と捉えている。事業やプロジェクトの卵をかえすインキュベーション(事業創出)活動は、ソニーの「未来」を探索する取り組みなのだ。

 領域外はない、越境も辞さない――。そんなソニーの精神が強く表れたインキュベーション活動の代表事例が、モビリティ開発プロジェクトだ。本稿では、2020年のプロトタイプ「VISION-S」の発表に始まり、今まさに進行している本田技研工業(以下、Honda)との協業へとつながる本プロジェクトにおいて、私たちインハウスデザイナーがどのように立ち回ったかを振り返りつつ、デザインの持つ「繋ぐ力」の一端をお伝えしたい。

 ソニーが初めてモビリティのプロトタイプを披露したのは、20年1月の「CES 2020」(米国・ラスベガス)でのことだ。ショーモデルではなく、法規にのっとって公道走行が可能な、実用に即した車である。プロジェクト名は「VISION-S」。クリエイティブセンターは、事業部門と共にコンセプトやスタイリングを含むトータルデザインを担当した。

 私たちがトップマネジメントから「モビリティの進化に向けて、ソニーはどんな貢献ができるか?」という問いを初めて受けたのは、その発表のわずか2年ほど前、18年のことだ。「いつ?」「何を?」も定まらない茫漠(ぼうばく)たる問いではあるが、時はまさにモビリティ分野で100年に1度の変革期。この大きな潮流にソニーの最新技術を掛け合わせ、新たな移動体験を実体化し、世界に提案すること――。これがクリエイティブセンターに課せられたミッションであると理解し、主体的にビジョニングをスタートさせた。

 私たちがディスカッションの起点として最初に用意したのは、30年後、10年後、5年後の世界観を可視化したビジュアルだ。ソニーがモビリティ領域で真に貢献するには、超長期のタイムスケールが必要と考えたのだ。ところが、このビジュアルをトップマネジメントに示し、ディスカッションを重ねたところ、「2年後を目指すべきだ」という驚くべき意向が明らかになった。