最先端を走るTSMCの半導体製造技術

 これまで最先端の回路線幅4ナノメートル(ナノは10億分の1メートル)など、最も高性能なロジック半導体の製造能力は、台湾のTSMCが独占してきた。今のところ、TSMCは世界の半導体産業の最先端を走り、同社に肩を並べる半導体メーカーは見当たらない。韓国のサムスン電子、米インテルなどがTSMCに対抗しようとしたが、いずれも大きな成果を上げていないようだ。

 サムスン電子は、DRAMやNAND型フラッシュメモリの世界最大手であり、ファウンドリ事業の強化を優先してきた。近年、同社はTSMCよりも微細化を急ぎ進めていた。しかし、半導体の他にもスマホやデジタル家電など複数の事業を運営するサムスン電子にとって、ファウンドリ専業であるTSMCの事業スピードについていくことは容易ではない。

 また、16年に米インテルは14ナノから10ナノへ、半導体製造能力を向上させようとしたものの、つまずいた。現在、インテルは最先端のチップ製造能力をTSMCに依存している。

 半導体メーカーとしての総合力で、TSMCは世界トップを独走している。戦略物資として重要性が高まる半導体の製造能力を高めるために、TSMCの工場を誘致できるか否かは、国際世論における主要国の発言力にかなりのインパクトを与える。そのため、各国政府はTSMCの誘致戦略を強化した。

 まず、米国が補助金などを積み増し、TSMCの誘致に成功した。米国政府はTSMCに最先端の半導体を米国で製造するよう求めたが、TSMCはコストの問題を理由に台湾での生産を優先した。しかし、22年11月、TSMCは米国で回路線幅3ナノメートルのチップを生産する方針を明らかにした。26年の量産開始を目指しているようだ。

 わが国でもTSMCが国内企業などと連携し、半導体工場を建設する。それらに後れを取るまいと欧州委員会もTSMCの誘致に一段と力を入れた。22年12月、ドイツにTSMCが欧州初の半導体工場を建設する方向で最終調整を進めていると報じられた。台湾から米国、わが国、そしてドイツへ、最先端型を中心に、半導体の生産拠点の地理的分散は加速している。世界の半導体産業の構図はよりダイナミックに変化している。