デフレ脱却の確定を前提に
富裕層は既に行動を開始

 もう一人は株も好きなBさん。彼は都内の会社経営者です。あるスポーツチームのオーナーでもあります。

「僕はかつて証券会社でサラリーマンをしていたこともあり、金利の怖さを知っています。日本は低金利時代が長いので変動金利を怖いと思っている人は少ないかもしれません。しかし、海外を見ると、金利は株よりも動くときは動く。実際、2011年にはギリシャショックにより、ギリシャの10年債の金利が4%台から40%に急騰しました」

 最近でも英国の「トラスショック」で、2022年冒頭は1%台だった英10年債の利回りが一時は4.5%まで急騰しました(現在は3%台)。基本的に10年債の金利が長期金利の指標的なものになるので、インフレが著しい現在の欧米では住宅ローンの金利が5%以上になっているのです。

 Bさんは神妙な顔つきでこう言います。「ハイパーインフレになるかどうかは置いておいて、現在起きている欧米のようなインフレが日本に来ない保証はないんですよね」と。

 中央銀行は不動産の価格が過熱したら金利を引き上げます。金利が引き上がると住宅ローン金利も上がります。住宅ローン金利が上がれば、不動産を買う意欲が減退します。そして不動産価格を調整させバブルをつぶすわけです。

 マーケットをよく理解していない方の多くは、「江幡さん、そんなに心配しなくても大丈夫です。変動金利が上がりそうになったら固定金利にしますから」とおっしゃいます。しかし、変動金利が上がるときには時既に遅く、既に固定金利は上がっています。

 実際、昨今の日本の金利情勢を見てみると、日銀の金融緩和の出口の第一歩でまずは住宅ローンの固定金利が先に上がりました。変動金利はほぼ変化していません。

 また、そもそもですが、金利の動きは基本「凪(なぎ)」です。しかし動くときは株よりも激しく時化(しけ)のように動きます。どちらかというとドル円のような為替に近いものがあります。ドル円も普段はあまり動きません。しかし動くときには激しく動く、波のような存在です。普段は凪ですが、嵐になったときには止められません。

 つまり、変動金利が上がりそうなときにはもう固定金利が十分上昇してしまっており、逃れられない状況となるわけです。そもそも融資は株や為替のように、思い立ったときにネットでポチッと変更できるものではなく、最低1~2カ月の期間が必要です。

 IMFをはじめ、世界のさまざまな専門家が、インフレを2023年の最大のリスクと指摘しています。40年ぶりともいわれる世界的インフレ、そのインフレ率は米7.7%、英11.1%、ユーロ圏10.7%に達しています。一方、日本は3.7%(2022年10月、対前年同月比)で、まだ相対的に落ち着いています。

 しかしアメリカの中央銀行は2021年夏まで「インフレは一時的」としていましたが、その後撤回し、2021年11月に量的緩和を縮小して2022年3月から政策金利の引き上げを急いできました。日本はそうならない可能性の方が高いでしょうが、そうならない保証もありません。

 いずれにせよ、日銀が出口戦略に実質的に一歩踏み出したのは間違いないのです。ハイパーインフレにはならなくてもデフレから脱することはほぼ確定したと考え、富裕層の一部は行動し始めているのです。