デジタルビジネスとユーザー接点で考えるデザイン経営の効果
こうして一定の広がりを得た今、次の課題は、この流れを線から面へと広げることだ。特に、売り上げ数百億円クラスの実績ある企業群につなぎ込むことができれば、「デザイン経営」は日本の産業界にしっかり浸透していくだろう。例えば、デザイン経営の導入を進めている企業として、日本経済新聞社のグループ企業QUICKがある。日経平均株価などの経済指標を提供するデータビジネスを半世紀にわたって継続してきた同社は、新たにデザイングループを社内に立ち上げ、新規事業の創出能力の向上に乗り出した。スタートアップのみならず、こうした歴史の長い企業でも、デザイン経営が当たり前になる流れを期待したい。本連載では、主にこうした企業に向けて、先行事例や方法論を具体的に伝えていきたい。
デザイン経営の活用を考える際には、「デザイン経営が効く領域」について理解しておくことが重要だ。結論からいうと、「デジタルビジネスを手掛け、かつ、エンドユーザーとの接点を持つ企業」(図の右上)がそれだ。当てはまる企業には強い効果が期待できるため、デザイン経営に取り組むことを勧めたい。
ここでいう「エンドユーザーとの接点」とは、プロダクトやサービスをエンドユーザーに直接届けているかどうかを指す。そのため、BtoC企業はもちろん、BtoB企業の多くもここに含まれる。freeeやSansanのようなBtoBのSaaS企業を思い浮かべればイメージしやすいはずだ。
非デジタル産業はどうだろうか。いわゆるハードウエア型プロダクトや対面サービスを手掛ける企業でも、エンドユーザーとの接点を持つ場合は効果が見込める(図の左上)。スノーピークやコクヨ、マルイといったデザイン感度の高い企業がお手本になるだろう。また、海外、特に欧州に目を向ければ、デザインを経営に生かして高効率なグローバルビジネスを展開しているものづくり企業は多い。
一方、デジタル産業でも、エンドユーザーとの接点を持たない要素技術系の企業は、デザイン経営で成果を出しづらい(図の右下)。さらに、部品産業や装置産業のような「非デジタルかつエンドユーザーとの接点を持たない企業」になると、デザイン経営の必要度は相対的に低下する(図の左下)。なぜこのような差が生まれるのかというと、まさにここに「デザインの力」の特徴が表れているからだ。