新たなる伸びシロ
アウトドア系は高付加価値商品
話を、アウトドア系モデルに移す。
軽自動車でのアウトドア系といえば、ラダーフレームを採用する本格的な四輪駆動車であるスズキ「ジムニー」が長らく市場をけん引してきた。
現行の4代目モデルが2018年に発売されてからコロナ禍前まで、需要増によって納期の長期化が慢性化するほどの大人気車となったことは記憶に新しい。
ジムニーは、森林開発・警備・警察関連車両など働くクルマとして、降雪地帯でのいわゆる“生活四駆”として、またハードなオフロード走行を楽しむ愛好家向けとして70年代から根強い人気があったが、4代目からはさらにアウトドアをイメージするファッショナブルなギア(ツール)といった需要が拡大したと、スズキは分析している。
また、AUTO EXPO 2023では、インド向けとして日本では「ジムニーシエラ」と呼ばれる登録車で待望の5ドアモデルが世界初公開されて、日本でも大きな話題となっている。現時点で、スズキは同5ドア車の日本導入について明らかにしていないが、日本のユーザーからのラブコールを受けて、日本導入の可能性は当然あるだろう。時期としては、コロナ禍の影響での3ドアモデルの長納期問題がある程度解決した時点が考えられる。
その他、スズキのアウトドア系のファッションギアといえば、「ハスラー」が成功事例だ。初代ハスラーの発表会で、当時の鈴木修会長は「全国のスズキ販売店を巡ると、ジムニーよりも身近なコンパクト軽SUVを造ってほしいという声を数多く聞いた」として自らハスラーの開発を指示したと語っている。
こうした中、ジムニーとハスラーが築いてきたアウトドア系分野に対して、ユーザーの間では、三菱には「パジェロミニ」の復活を、またダイハツには「タフト」に比べてよりハードなオフロード走行が楽しめるモデルを望む声がSNS上や販売店に対する要望として増えてきた。
筆者は10年代後半から、こうした案件について三菱やダイハツと情報交換してきた中で、「市場動向を踏まえて検討中」という回答にとどまってきた。
それがコロナ禍になり、キャンピングカーや車中泊がブームになったことにより、三菱やダイハツの軽アウトドア系の受け皿として、軽ミニバン的な発想が優先されるようになった。
具体的には、ダイハツの商用軽「アトレー」、乗用軽「タント ファンクロス」、スズキの商用軽「スペーシア ベース」、そして三菱の乗用軽「デリカミニ」が量産されるに至った。
本格的な四駆走破性より使い勝手優先
デリカミニのターゲットユーザーとは?
直近で注目度が高いのは、1月13~15日に開催された東京オートサロン2023での実車初公開と同時に販売店での受注開始となった「デリカミニ」(冒頭の写真)だ。正式デビューは23年5月だ。
三菱自動車の関係者によると、「ターゲットユーザーは、キャンプやアウトドアユーザーに根強い人気のあるデリカD:5が欲しいと思ってきたが、ボディサイズやゴツゴツした見た目、そして価格等の面で“ちょっと近寄りがたい”と感じてきたヤングファミリー層」と言う。
そのため、外観はデリカD:5をイメージするような雰囲気を持たせながらも、インテリアでは撥水加工やハンズフリーで足を動かす操作などで開閉可能なスライドドアなど、三菱のスーパーハイトワゴンとしての使い勝手の訴求を改めて目指した。
四輪駆動については、開発のベース車である「eKクロススペース」で採用している、いわゆるオンデマンド方式システムを継承した。その上で、ダートなどの砂利道でのテスト走行で乗り心地が良く走りやすい足回りを作り込んだ。具体的にはショックアブソーバーの新設計と15インチの外径を大きくしている。
商品企画段階では、よりハードなオフロード走行性能を実現するための四輪駆動システムなども検討したが、商品としての大前提が他社でいえば「N-BOX」や「タント」であり、そうしたターゲットユーザーにとって、走りの使いやすさを最優先することになったということだ。
このように、軽市場では今、母数の多いファミリー層向けのアウトドア系モデルという“新たなる伸びシロ”がはっきりと見えてきたといえるだろう。
ここに、スーパーハイトワゴン系での保有台数が最も多い「N-BOX」のフルモデル期が迫る中、次期「N-BOX」でもアウトドアを連想される車系が登場することが大いに期待される。
現時点で、そうした新しい車系については、あくまでもうわさが優先している状況で、ホンダ周辺から詳細な情報は漏れてこない。
今後も引き続き、軽市場の行方をじっくりとウオッチしていきたい。