「つくる」ことで、論理を超えていく

製品であれサービスであれ、ビジネスでは「これまでにない何かを作る」ことが求められます。しかし新しいものを作っているつもりでも、いつの間にか「どこかで見たような何か」「いつもの何か」になっていた、という経験を持つ人は多いのではないでしょうか。既知から抜け出し、未知へアプローチするためには何が必要なのでしょうか? 連載第3回では、頭の中で組み立てた論理の外側に飛び出すため、「つくる」ことの重要性について掘り下げます。 

デザイナーは「つくる」ことで考える

 デザイナーの仕事は「価値を形にする」ことです。プロダクトデザインも、店舗デザインも、サービスデザインも、機能、使い勝手、心地よさといったさまざまな価値を、モノや空間、あるいは仕組みとして形にする行為です。中でも、これまで世の中に存在していなかった未知のなにかを価値としてすくい上げ、人間が五感でしっかりつかみ取ることのできる「かたち」として提示できたとき、私はデザイナーとして大きな喜びを感じます。

 デザイナーでなくとも、価値を形にする仕事に携わっている人は多いことでしょう。しかし「未知の何か」を求めているのに、いざ形にすると、どこかで見たことのある「既知の何か」になってしまう──というジレンマを抱えている人も、また多いのではないでしょうか。社会が成熟するとともに、「利便性」「効率」といった数値化できる性能だけでなく、「心地よさ」「ワクワク感」といった情緒的な価値が重要になり、「形にする」ことがどんどん難しくなっていることも要因かもしれません。

 この壁を突破するには、特別なセンスや発想力が必要だ、と思われるかもしれません。それも間違いではありませんが、私は、もっと重要な要素が「つくる」ことではないかと考えています。頭で考えることと並走して、手を動かし、何かを作り続けること。それが体験値として蓄積した先に、未知が見えてくる。作ることで考える──。「デザインワーク」は、まさにこの繰り返しだと思うのです。

 例えば、毎日乗っている愛車や、かわいがっているペットなど、よく知っているはずの対象ですら、絵に描いたり、粘土で作ってみたりすると、往々にしてうまく形にできない部分があります。頭で理解していたと思っていたけれど、実は「分かっていなかった」部分が、自分の手で形にしようとすることで見えてくるのです。つまり「つくる」ことが、自分にとっての未知との出合いになり、「どこが分からないか」が「わかる」。すると、作る前より対象に対する思考が豊かになっていくのです。「つくる」ことは、単に形にすることではなく、現時点の自分の思考と、さらにその先を考える方法そのものといえます。第1回でも触れたように、手を動かすことは「分かったつもり」を脱するための極めて重要な行為なのです。