感情がわき上がってきた場面を一つの文で表現
次に、主語を自分自身にして、感情がわき上がってきた場面を一つの文章で表現する。つまり、「上司が自分に冷たい」ではなく、「僕は上司にムカつく」という文章だ。これは、しばしば他人には知られたくないような内容だから、最初はこの文章を作ること自体に抵抗があることが多い。でも、他人に知られるわけではなく、聞くのは大人の自分だから大丈夫だ。
「上司にムカつく」という文章を作ると、その状況を改善するためにはどうしたらいいか、という問題解決の方法を考えたくなってしまうかもしれない。でも、そうではなく、ここでは感情をありありと思い浮かべることだけに集中する。
そのうえで、自分の中にいる「小さな子ども」が、「あいつのことがムカつく!」と話す。このときのポイントは、子どもの自分が話すことを、大人の自分が「わかるわかる、そうだよね」と100%認めてあげることだ。そうすることで、子どもの自分はすべてをさらけだすことのできる安全な環境だと感じて安心し、次のプロセスに進むことができる。
「『どうしてムカつくと酒を飲んでしまうのか?』などと大人の自分がすぐに問いただしたくなるかもしれませんが、その前に、まずは子どもの自分に100%同意してあげることが大切です。
悪い結果に対して“なぜ?”と質問すると、相手を責めるニュアンスが伝わってしまうことがあります。例えば、遅刻してきた人に対して“なんで遅刻してきたの?“と聞けば、質問している方は本当に理由を知りたいだけかもしれませんが、質問された側は批判されているような気になります。まずは全面的に同意して子どもの自分に安心してもらうこと。理由を聞くのはその後です」(西教授)
確かに、もし現実に「上司がムカつくから飲まなきゃやってられないんだよ」というような弱音や愚痴を吐いたら、周囲の家族や友人は「そんなこと言わないで頑張れ」と励ましたり、「このままだと間違いなく病気になるぞ」などとの健康情報を持ち出して説得をするだろう。
このような対応は、本人をさらに意固地にさせてしまうこともある。ヘビースモーカーにたばこの健康被害のデータをいくら示したり、周囲が迷惑をしていると説いても、「長生きしようと思っていない」「税金を払っている」などとかえって態度が硬化してしまうのと同じだ。
このような状態では本音の部分を話すことなどできるわけがない。だからこそ、まずは「そうだよね、わかる、わかる」としっかりと寄り添うことが大事なのだ。
子どもの自分の言い分に丸ごと同意したうえで、必要なら「でも、どうしてそう感じるんだろう?」と聞いていくことを繰り返し、子どもの自分が大人の自分に洗いざらい話してくれることで、「気づき」が進んでいく。そして、「本音を話せる人が誰もいない」「寂しい」というところまでたどり着くかもしれない。その寂しさを紛らわせるために「飲まずにはやってられない」という状態になるという「心のパターン」が浮かび上がってきたとしよう。これに気づくことが非常に重要だと西教授は言う。
「大切なのは、自分自身を客観的に俯瞰できるようになったということです。自分の心のパターンを理解していれば、お酒をたくさん飲んでしまっている時に“ああ、自分は今、すごく寂しいんだな”と自分の心の状態に気づけることもあるでしょう。気づくことができれば、それだけでお酒の量が自然に減ることもあると思います」(西教授)