普段の生活にも役立つ、感情コントロールが手軽にできる方法

 西教授が提案するのが、自分の感情を見て、それに気づくことだ。

「私は特定の精神療法の専門家ではありませんが、いろいろな精神療法をかじってきて、有効と思われる治療の共通点は自分に気づく力を高めることだと感じています。そしてそれは、うつ病の予防や治療にはもちろん、ビジネスや普段の生活にも大いに役に立つものだと思います」(西教授)

 精神療法と聞くと、心のハードルが急に上がってしまうかもしれない。「最近流行している瞑想とかマインドフルネスだって難しそうなのに」と腰が引けてしまう人もいるだろう。ただ、西教授によれば、私たち誰もが比較的手軽にできる方法もあるという。

「自分の中にいる“小さな子ども”のストレートな感情を現在の大人の自分が聞いてあげる、という方法です。ここでは仮に、感情を素直に感じているのを“子どもの自分”、それを抑え込もうとしているのを“大人の自分”と考えてみましょう。子どもの自分が『悔しい!』『怖い!』と叫んでいるのを『そうだよね』と全面的に共感しつつ聞いていくことで、自分の心の状態やパターンに少しずつ気づいていくことができます」(西教授)

 なかなかイメージがわきづらいと思うので、具体的なケースで説明していこう。

 例えば、仕事が思うようにいかないときに酒を飲みすぎてしまう男性がいる。酒は本来、誰かと楽しい時間を過ごすためのものだが、この男性の場合、楽しんでいるというよりはストレス発散のために飲んでいて、杯を重ねていくうちに泥酔してしまうこともある。健康診断の数値的にも、医師からも酒量を減らすように勧められていた。

 このような場合、まず酒を飲みたくなったら、何らかの感情がわきあがってきている場面を具体的に思い出してみるとよいという。この男性であれば、いつも夜に自宅に1人でいる時に上司へのイライラを強く感じて酒を飲まずにはいられなくなるようなら、夜の自宅に1人でいる場面を思い出すということだ。