そのような「内発的動機付け」を促す要素として、心理学者のエドワード・L・デシ氏とリチャード・M・ライアン氏による「自己決定理論(SDT:Self-determination theory)」では「人は生来、能力を発揮したい(有能感)、自分でやりたい(自律性)、人々と関係を持ちたい(関係性)という3つの心理的欲求が備わっている」と説いています。

 つまり、仕事をするなかで、「自分は○○ができている」という「有能感」が実感でき、誰かの指示や命令ではなく自分で決定し動かしているという「自律性」を感じ、同じ目標をめざす仲間との交流や刺激をし合う「関係性」を持つことが大切なのです。

 また、ダニエル・ピンク氏は『モチベーション3.0』(講談社)の中で、自律性に重要な4つのT(Task:課題、Time:時間、Technique:手法、Team:チーム)をあげ、「何を、いつ・どこで、どんな方法・手段で、誰と行うのか」を自己決定できることが大切だと紹介しています。逆に言うと、これらを実感できない環境や関係性のなかでは、人は徐々にやる気を失っていくというわけです。

 リーダーとして、自分の言動がこれらの環境を阻害していないか、「内発的動機付け」を意識した関わりや環境づくりができているかを考えてみてください。

「とにかく言うとおりに」と自分の経験を過信する上司

 続いては、部下の意見も提案も受け入れない、「自分が絶対」のお山の大将タイプの上司を紹介します。

 誰よりも努力をして営業の実績を残し、高い評価を得てきた上司。だからこそ、仕事の進め方や顧客との関係のつくり方など、独自の強いこだわりがある。「時代が変わっても、営業の心は変わらない。やるべきことは常に同じなんだ」が口癖。

 成功体験やノウハウを部下に惜しみなく伝えてくれるのはいいのだが、新しいツールを使った提案などをしても、すべて却下。

「そんなことより、まずはこれをしっかりやり遂げてから」と自分のやり方を押しつけてくる。

 今も現場に出ることを何よりもやりがいに感じている、業績が評価されて昇進してきたような上司にありがちなパターンです。

 たしかに、過去の実績に裏打ちされたノウハウには説得力があり、それなりの効果も出るでしょう。しかし、それだけでは部下の自主性が育たないばかりか、やる気が下がる原因になることすらあるのです。