集合時間に遅刻したのにあえて自虐ネタを披露

 航空会社では常に「定時定刻」という言葉がついてまわり、それは企業価値にもつながるものでした。そのため、私たちCAも出社時間や出社場所に関しては、念には念を入れて確認するよう指導を受けていました。

JAL元CAがやらかした大失敗とは?「黒歴史」を隠さず語り継いだ理由七條千恵美(しちじょう・ちえみ)  元JAL CA。際立った影響力を持つ客室乗務員として「Dream Skyward 優秀賞」を受賞、取締役から表彰を受ける。また、TOP VIPフライトの中でも最上級ハンドリングのフライトである皇室チャーターフライトのメンバーに抜擢された経験を持つ。2010年から2年間は教官として訓練生を指導。会社評価Sを獲得。マインドの授業に定評あり。2013年JAL を退職後、人材育成コンサルタント/ 研修講師/ビジネス書作家として活動。パナソニック、コーセー、ポーラなどの大手企業から中小企業、商工会、教育機関など多岐にわたり講演や研修を行っている。著書に『「気がきく人」が大事にしている、ちょっとしたこと』(Clover出版)、『礼節を磨くとなぜ人が集まるのか』(青春出版社)、『接客1年生』(ダイヤモンド社)、『ザ・チームワーク』(アルファポリス)、『接客の一流、二流、三流』(明日香出版社)、『人生を決める『ありがとう』と『すみません』の使い分け』(アルファポリス)。公式サイト:https://glitterstage.com

 身だしなみの徹底も求められるので、寝坊というのは絶対にやりたくないミスでした。ところが、海外のホテルにステイした翌日、女性のチーフパーサーが寝坊して、集合時間に間に合わなかったのです。しかも、その日はチェックフライトといって、マネジャーが同乗する特別なフライトでした。

 その後、空港に向かうバスに遅れて乗り込んできたチーフはノーメイク。いつもは完璧な身だしなみですが、とにかく荷物だけ持って飛び出してきたという状況でした。そして「みなさん、申し訳ございません!」という謝罪に続き、こう言ったのです。

「チェックフライトでマネジャーもいらしているというのに、寝坊をしてしまい、すっぴんをさらし…。わたくし、もう怖いものはございません!」

 この一言で張り詰めた空気が一変。「チーフにどんな声をかければいいのだろう」と複雑な気持ちでいた後輩たちにも笑顔が出始めました。

 チーフは焦る気持ちにのみ込まれてしまうことなく、「どう振る舞えば、この先の状況をより良くできるか」とチームの状況を第一に考える視点を持っていました。「せめてこの後のフライトに悪影響が出ないように明るく!」と考えて、自虐的なユーモアで周りを和ませてくれたのです。

 研修などで「職場の雰囲気づくりやコミュニケーションを円滑にするために、どんな工夫をしていますか?」と質問します。自分から声をかけるようにする、相手の様子を気遣う、笑顔で接するという回答は多いですが、ユーモアで相手を和ませる、自分をさらけ出すという方法はほとんどの人が思いつかないようです。

 ユーモアのある人はそれだけでも人気者ですが、使い方によって職場やチームの雰囲気を変えることができます。言いたくないことまでさらす必要はありませんが、今は笑い話にできる「黒歴史」なら生かしてみてはいかがでしょうか。