集合時間に遅刻したのにあえて自虐ネタを披露
航空会社では常に「定時定刻」という言葉がついてまわり、それは企業価値にもつながるものでした。そのため、私たちCAも出社時間や出社場所に関しては、念には念を入れて確認するよう指導を受けていました。
身だしなみの徹底も求められるので、寝坊というのは絶対にやりたくないミスでした。ところが、海外のホテルにステイした翌日、女性のチーフパーサーが寝坊して、集合時間に間に合わなかったのです。しかも、その日はチェックフライトといって、マネジャーが同乗する特別なフライトでした。
その後、空港に向かうバスに遅れて乗り込んできたチーフはノーメイク。いつもは完璧な身だしなみですが、とにかく荷物だけ持って飛び出してきたという状況でした。そして「みなさん、申し訳ございません!」という謝罪に続き、こう言ったのです。
「チェックフライトでマネジャーもいらしているというのに、寝坊をしてしまい、すっぴんをさらし…。わたくし、もう怖いものはございません!」
この一言で張り詰めた空気が一変。「チーフにどんな声をかければいいのだろう」と複雑な気持ちでいた後輩たちにも笑顔が出始めました。
チーフは焦る気持ちにのみ込まれてしまうことなく、「どう振る舞えば、この先の状況をより良くできるか」とチームの状況を第一に考える視点を持っていました。「せめてこの後のフライトに悪影響が出ないように明るく!」と考えて、自虐的なユーモアで周りを和ませてくれたのです。
研修などで「職場の雰囲気づくりやコミュニケーションを円滑にするために、どんな工夫をしていますか?」と質問します。自分から声をかけるようにする、相手の様子を気遣う、笑顔で接するという回答は多いですが、ユーモアで相手を和ませる、自分をさらけ出すという方法はほとんどの人が思いつかないようです。
ユーモアのある人はそれだけでも人気者ですが、使い方によって職場やチームの雰囲気を変えることができます。言いたくないことまでさらす必要はありませんが、今は笑い話にできる「黒歴史」なら生かしてみてはいかがでしょうか。