最新研究から読み解く3つの完璧主義とウェルビーイングの関係
これら3つの完璧主義は1人の人に複数存在し得ます。つまり、SOPでありOOPでもある人(=自分にも他人にも厳しい人)がいれば、どの完璧主義にも該当しない人(=自分にも他人にも甘い人)や、SOP傾向のみ目立ち、他の完璧主義は目立たない(ピュアなSOP)という方もいます。
これまでの研究では、ピュアなSOP傾向の(SPPとOOPの特徴は乏しい)人とウェルビーイングの関係は一貫しません。ある研究では、SOPであることは人生の満足度を向上させることでウェルビーイングを高めるとされていましたが(1)、別な研究では、自分に対する思いやりが減ることによりウェルビーイングを下げると報告されています(2)。
ピュアなOOP傾向とウェルビーイングの関係も一貫しません。OOPは自分の考えを他者に押し付けているだけなので自分のウェルビーイングは高くてもよさそうです(3)。しかし、OOP傾向の人は尊大でナルシスティックであるもののウェルビーイングは高くはないという結果もあります(4)。
このようにピュアなSOPやピュアなOOPとウェルビーイングに一貫した関係を見出せない理由として筆者が考えているのは、実際にはSOPかOOPのどちらか1つしか持たない人は稀だからです。自分に厳しい人はある程度他人にも厳しく、他人に厳しい人はある程度自分にも厳しいことが多いです。
また、3つの軸の組み合わせパターンとウェルビーイングについても研究されています。具体的には、SPP・SOP・OOPがいずれも高い集団(行きすぎた完璧主義と呼ばれます)のウェルビーイングが低いことは一貫して報告されています。一方で、SOP+OOPの両方が高い(つまり自分にも他人にも厳しい)集団のウェルビーイングとSOP・SPP・OOPのどれも低い集団(つまり非完璧主義者)のウェルビーイングは高い傾向にあるようです(5)。
これまでの完璧主義のパターンとウェルビーイングの関係を俯瞰したときに一貫していることは、SPPが高い(=完璧な自分でなければならないと思い込む)と必ずウェルビーイングは低いということです。SOPもOOPも自分の中での完璧像が規範となっていますが、SPPについては他者がつくった完璧像が規範となっています。つまり、満点を目指す傾向があるかどうかはウェルビーイングにあまり関係がなく、他者の価値観基準に自分が当てはめられることがウェルビーイングを下げてしまうのです。
3つの完璧主義で、一番気をつけるべきなのはどれ?
これまでの話をまとめましょう。最初の3つの相談を受けたとき、一番まずいと考えなければならないのは、2つ目の相談です。
1つ目と3つ目の相談は比較的単純です。相談時は、完璧主義がうまく機能していませんが、SOPとOOP自体はご本人のウェルビーイングにとって必ず不利益とは限りません。そこで、まずは自分の期待に自分や部下が応えられるような環境調整をしていくことでウェルビーイングは向上し得ます。考え方そのものまで変えなければならないとは限りません。
一方で、他人の期待や社会の模範になれない自分を責めてしまうと幸せにはなれません。ウェルビーイングは下がり、抑うつや頭痛・めまいなど心身の不調をきたす可能性すらあります。SPP傾向そのものを変える必要がありますから、「人の期待になんて応えなくていい」「人からどう思われてもいいじゃないか」といった根本的なアドバイスが必要になります。
(2)Stoeber J, Lalova AV, Lumley EJ. Perfectionism, (self-)compassion, and subjective well-being: A mediation model. Personality and Individual Differences. 2020;154.
(3)Birch HA, Riby LM, McGann D. Perfectionism and PERMA: The benefits of otheroriented perfectionism. International Journal of Wellbeing. 2019;9(1):20-42.
(4)Juwono ID, Kun B, Demetrovics Z, Urbán R. Healthy and unhealthy dimensions of perfectionism: perfectionism and mental health in hungarian adults. International Journal of Mental Health and Addiction. 2022.
(5)Molnar DS, Sirois FM, Flett GL, Sadava S. A person-oriented approach to multidimensional perfectionism: perfectionism profiles in health and well-being. Journal of Psychoeducational Assessment. 2019;38(1):127-142.