ビール完敗#6Photo:PIXTA

飲食店でも「ビール離れ」が始まっている。飲食店向けのビール販売量がコロナ禍で激減したことで、メーカー側がビールの販売謝礼金を削減。乏しい支援に失望する外食企業とビールメーカーの間の溝が深まっている。一大市場だった飲食店との蜜月関係悪化は、ビール復活を遠のかせている。特集『ビール完敗』の#6では、メーカーと飲食店や外食企業との間にできた“二つの亀裂”に迫る。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)

飲食店向け業務用市場「地位低下中」
メーカーと飲食店に「2つの亀裂」

「かつては定期的にビールメーカーの社員が営業に来てくれた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年以降は、1回も来てくれないね」。都内で飲食店を経営する男性は、寂しそうにそう嘆く。

 コロナ禍でビールメーカーと飲食店の関係が変化した。冒頭の飲食店経営者の指摘は、一営業マンの問題というよりも、ビールメーカーの営業方針自体が変容した影響が大きい。

 あるビールメーカーの関係者は、「コロナ禍で、飲食店などの業務用営業部隊の人員を1割削減した。スーパーやコンビニなど家庭用部隊や、工場や総務部などに配置転換された」と明かす。

 つまり、飲食店を回る業務用営業に割く人員自体が減少しているのだ。これはビールメーカーから見た業務用市場の「地位低下」を象徴する動きだ。

 一般的に、業務用酒類の利幅は、家庭用に比べて低い。しかし、飲食店でお酒を飲む体験が小売店での購買行動につながるため、“両輪”を回すことが重要だというのが業界の常識だ。

 成功例として挙げられるのが、09年ごろにサントリーが仕掛けたハイボールブームだろう。飲食店向けに、ビール感覚でジョッキで飲むハイボールの提案や、若者好みの割り方のセミナーの開催などで、消費者に浸透させてヒット市場へと育てた。しかし、コロナ禍の今となっては、両輪が回りにくくなっている。

 そして、飲食店とメーカーが築いてきた蜜月関係にも、「二つの亀裂」が生まれ始めた。飲食店の現場からは、「ビールの販売謝礼金を減らされた」などと悲痛な声が漏れる。一体何が起きているのか。

 次ページでは、飲食店とメーカーの間に生まれた「二つの亀裂」をつまびらかにする。