本、積んでます? わたしのデスクには積ん読山脈が連なってます。でも「積んでます」って、堂々と言いにくくないですか。なんだか著者に悪い気がして。
それが、ぜんぜん違いました。デビュー作『0メートルの旅』
を出版して2年経った著者の岡田悠さんが、「自分の書いた本が積まれるのは嬉しい」という実感を語ります。積読家のあなた、ぜひ。(撮影/岡田悠、構成:編集部/今野良介)

本を出したら、積ん読の報告が大量に届く

僕は積ん読が好きで、本屋から本を仕入れては、日々せっせと積んでいる。

積むことに喜びを感じ、積ん読本の感想を語り合うイベントを開催したりもする。
(みんなまだ読んでないので、感想は適当である)

しかし正直、若干の後ろめたさもあった。「著者からしたら、いい気はしないのでは?」と思っていたからだ。自分の本が積まれていると知ったら、どう思うものだろうか。

2年前、僕自身が『0メートルの旅』という旅行記を出版したことで、その説を自ら検証することになった。

まず、本を出して驚いたことは、「賞味期限」の長さである。普段はWeb記事を書くことが多いのだが、たとえTwitterトレンドに表示されるくらいバズったとしても、勢いが続くのはせいぜい数日間。一週間もすれば、ほとんど話題にすらされなくなる。

一方、本は読むのに時間がかかる。長いし、重いし。だから初速の爆発力こそWebに劣るものの、じわじわと、とても長く読まれる。

『0メートルの旅』は別にベストセラーとかではないのに、2年経った今でも、感想が定期的に届く。Twitterであったり、対面であったり、手紙であったり。

これはまあ率直に言って、全部めちゃくちゃ嬉しい。頑張って書いた本の感想を読むのは、至福の時間である。

感想の中身は実に多様で、

「旅は嫌いだけど、読んでよかった」
「南極の旅行記より、近所を散歩してる旅行記の方が面白かった」

といったちょっと想定外の感想をもらうことも多い。これもかなり嬉しい。

先日などは、心が疲れてしまった友人にこの本を渡したら、友人は読んだ翌日に日帰り旅行に出かけて、そのまま仕事にも復帰しましたという葉書までいただいた。そのまま額縁に入れて飾ろうと思う。

また、読んだ感想だけではなく、読書の経過報告が届いたりもして、これも同様に嬉しい。2年間かけて読んでいる途中ですというような人も珍しくない。ファスト映画が流行る時代に、望外の喜びである。

中には登山の度に持参して、頂上に到着したら数ページ読むことにしているという人もいて、そんな本の読み方があるのか、と驚かされた。毎回、足元にある落ち葉を栞にしているらしい。格好良すぎ。その人のブックカバーには、ダメージジーンズのように味のある傷がついていた。

さて、本題の積ん読である。案の定というべきか、この報告もかなり多い。

僕は『旅のラジオ』というPodcastをやっているのだが、投稿コーナーには毎回のように積ん読のお便りが送られてくる。

「こんにちは、岡田さん。『0メートルの旅』、楽しく積んでます。」
「これからも楽しみに聴きます! ちなみに『0メートルの旅』を2年前に買いましたが、まだ読んでません。」
「先日、岡田さんがラジオで勧めていた沢木耕太郎さんの本を読みました! 岡田さんの本はまだ積んでます。」

といったように、積ん読が時候の挨拶になっている。僕が以前から積ん読好きを公言していたから、気を利かせてくださっているのだろう。積ん読の因果応報である。

ただ、いざ積ん読の報告をもらうと、これが全然悪い気はしない。むしろ嬉しい。さっきから「嬉しい」ばっかり言ってるが、積ん読好きのポジショントークではなく、本当に嬉しいのだ。

なぜなら、積ん読とは、旅に出る前の空港みたいなものだから。

自分の書いた本が、世界のどこかの、誰かの本棚の片隅にじっと座って、いつか読まれることを待っている。積ん読の報告を聞くたびに、そんな光景が思い浮かぶ。深夜の空港で離陸する飛行機を待つ旅人のような、高揚と不安が積ん読にはある。

本を積んだ後に読むことはできるけど、読んでしまったらもう積むことはできない。

積ん読は「読むかも」という可能性を未来に残す行為だ。

「積ん読」はむしろうれしい著者の告白読書とは「0メートルの旅」

だから僕は、「あの積ん読の報告をくれた人は、そろそろ読んでるかな。やっぱり、まだ積んでいるな」といった妄想を、死ぬまで繰り広げることができる。一度出した本で、ずっと楽しむことができるのだ。

積ん読によって、本は話題の賞味期限から解放され、代わりに寝かせれば寝かせるほど熟成していく。

旅の喜びとは、目的地ではなく、道中にこそある。バスに乗れなかったり、立ち寄った街が気に入って長居したり、そういった予想外の出来事や道草を繰り返した旅が、やっぱり記憶に残っている。

その結果、目的地に到着できたかどうかは重要ではない。空港で飛行機に乗るのをやめて、そのまま帰宅したっていい。

予想外のコメントをくれる人、時間をかけて読んでいる人、積んでいる人。どの感想も、本が連れて行ってくれる旅そのものだ。(了)